「君の名は。」とマーケティングの話

とある田舎の女子高校生と都会の男子高校生が入れ替わり、夢だと思いながら各々の1日を過ごし、次の日には元の体と人格に戻る。最初は夢だと信じていた二人も、周囲の反応を見て自分は実在の誰かと入れ替わっているということに気がつき、スマホにメッセージを残すようになる。しかしある日突然その入れ替わりはなくなりスマホの履歴も消えてる。男子高校生は入れ替わっていたときの自分の記憶にある景色を頼りに、入れ替わりの女子高生を探す。

このあらすじを見ただけで、「あ!」となる方も多いはず。昨年から今年にかけて偉業とも言えるヒットを記録した「君の名は。」です。

監督は新海誠監督、プロデューサーは川村元気氏。

私も遅ばせながら今年一月に観てきたのですが、まあすごい映画だな!と。

見ようによっては純愛映画。手伝っているオフィスのパートの奥さんはそこが良かったらしくすごく楽そうに話しているのが印象的だった。

映像美でアート界隈も惹きつける。デザイナー仲間はやっぱりそこにぐっと魅せられた人も多かったようです。

新海監督のフェティシズムはそのまま生かされつつも、くどくどしないので女性も見やすい。(口噛み酒の件はすったもんだとあったようですね。)しかしそこに哲学を見い出すこともできる。

もう、売れることが約束されてるんじゃないですかねっていうくらいめちゃくちゃマーケティングされてますよね、この映画。

そんなこと考えながら見たもんだから、私自身見終わった後は正直「・・・なんの映画だったんだ」という感じになったんですけど、よかったか悪かったかでいうと、「よかった」んですよね。王道で。

よく哲学的な映画である「うえっ」とくるシーンもないし、時系列がばらばらで「はて?」ってなることもない、起承転結へのリズムもばっちりで退屈しないように尺も調整されている。ハッピーエンドでだれも犠牲にしない。なのにスリルもしっかりある。エンターテインメントの王道では、という。(映画のチケット代が1800円前後であることも考慮されてる気もしました。)

なんで映画館出た後の一言が「川村元気炸裂!って感じの映画だった・・・」になっちゃったんだと思います。新海監督ごめんなさい。

王道を徹底的に地でいくことの強さ、そして「いま王道をいく」という差別化を感じましたね。

よし。いつもはすぐ真面目な話やめちゃうんですけど今日はつづきを頑張ります!

 

自論と市場を対立させない。

これをマーケットインとプロダクトアウトのバランス、なんかと言い換えたりもしますが、これ対義語みたいに思われがちです。

「デザイナーの自己満足」という言葉を聞くと悲鳴をあげたくなる我々企画側ですが、その反面「売れ線に走って同じものばっかり作りやがって」の言葉には「切腹します」と言いたくなることもままあります。

アパレルでいうとこの部分は経営・運営の部分で管理される(展示会スケジュールから店頭スケジュールなど)ことが多いので一概にデザイナー・企画がどうこうとも言い難いですが、まあそれでも実務をするのは我々なので考えさせられることも多いこの言葉。

でも、「うちはプロダクトアウトやで!」(こんなこと言ってる人見たことないんで大変アレなんですが)といって消費者に伝わらないものをやっているのはそれは自己満足であってプロダクトアウトとは言いません。これを混同してるとちょっと香ばしいです。

反対に「顧客の声をそのまま反映して作ろうぜ!」はマーケットインとは言いませんし、大抵「誰もが見たことある」ものが出来上がってしまいます。

私自身、コレクションブランドと、売れるものがわかってからクイックで作る会社も経験した結果、このマーケットインとプロダクトアウトは水と油のように混ざり合わないものではないと考えるようになりました。

というか、絵の具のように混ぜて使うものだと考えています。

上の「君の名は。」もそうなんですけど、新海監督の世界観が全く消されてるわけじゃない。でも、それ以外を全部「適度」にしてる。

「作り手の立場からの発信」と「客層を広げるための消費者のニーズ」をうまく混ぜ合わせているんですよね。

新しさがありながら、王道を押さえてる。

それは新海ファンにとってはとても新しく見えたかもしれないし、一般の消費者にはとても見やすいのに新鮮な映画に見える。

非常に多面性を持たせることに成功している。

「自論」にあたる部分と「市場」における要素をどれくらいの割合で混ぜるのか、これはターゲット設定を含めたブランディングにも大きく影響されると思いますし、はっきり言って100発100中ではないです。

それでも、「自論」を薄めすぎると何が言いたいのかよくわからなくなるので、この割合は衣料品からファッションに 振れれば振れるほど「自論」が濃くなると思っていいのかな。と考えています。

 

「観たい」を「観なくちゃいけない」に変えた力

なんでこんなにいきなり、それも今更、「君の名は。」の話を始めたかというと、この映画まだやってるらしいじゃないですか。

それを聞いて「ひええええ」と。「ひええええ川村元気いまシメシメって思ってる!」と。(なぜかわたしの中で川村さんはこのイメージ)

ファッションのトレンドでもなんでもそうなんですけど、流行や最先端のものが世の中に浸透するまでは、いくらこれだけ情報が溢れてるとはいえヒエラルキーが存在しますよね。

やっぱり、ミーハーな業界人でもない限りなかなか開始即刻お金って払わないんですよ。映画ならちょっと待てばレンタルできるし、ファッションなら似たものを安く買おうとする。

でも、この映画はいま、「なんとなく観たい」から「なんとなくいま観なくちゃいけない」になってる。しかももう公開されてから半年たってるので、DVDを待ってもいい頃合いですよね。

これってすごいことです。映画館で。ですよ。このご時世に。

これがマーケティングの力ですよね。上段でも言ったようにこの映画、すっごい「良かった」んですよ。気分が悪くなったり、人間性を握りつぶされそうになったりする瞬間なんて一度もない。でもその代わり「で、何が言いたかったの?」っていうのはあるんですけど、正直それを求めてる層ってほんの一部なんだと思います。

「よかった!」「美しかった!」のSNSや口コミの感想が「いつもはDVD層」を動かしたわけです。公開早々にこういう大喜利も始まりましたし。

はい、こんなことばっかりやってます。いいね、2。

(深地さん、夜中にTwitter窓の差し込み方聞いた結果がこの使い方ですみません・・・)

単純に「質の良い」とか「全米が震撼する」とか「人間性を揺さぶられる」なんていうものは世の中に溢れすぎている。その反面、それと差別化をしようとして世の中にとってわかりにくい付加価値を謳ったり、本当に必要なのかわからない機能をつけたりする。そのどちらにもこれは当てはまらない、マーケティング中のマーケティング!

(プロモーション活動やなにより音楽を任されたRADWINPSの抜擢も幅広い層をつかむのに最適だったかと思います。)

ファッションで難しいのはここですよね。服自体はわかりやすく喋ってくれませんから。でもここで販売員のみなさんが必要なんだろうと思うんです。

「欲しい」じゃなくて「私のためのものだ」と思ってもらうプロモーション。大好きなショップに行くといつもあるんですよ。

わたしはこのブランドの服が欲しくて来たけど、着ているスタッフさんを見て「これわたしに必要!!!」と思う瞬間が。あとはボディでの提案にも「おお〜!!」と思わされることもしばしば。

それはやはり、販売員の方々がブランドのブランディング上、大切な広報として結果を出しているからだろうと、試着室でわたしはサイズ0とサイズ1を着比べながら分析するわけです。

そして試着室を出た時に、どっちを買うんだったか忘れていてもう一度試着室に入るわけですね。はい。

このあたりで3000文字を越えてきたので本日はここまで。

いままで君の名は。の感想を黙ってたのは、ただ単にあまりの人気に書くのが怖くて黙ってました。

 

そして、最後に伝えておきたい大切なことは「君の名は。」の感想を聞かれてこのように答えると「一緒に映画観たくない・・・」って言われるので絶対にやめましょう。

 

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中溝 雪未
About 中溝 雪未 15 Articles
1990年生まれ。コレクションブランドの企画室でインターンからデザイナーアシスタントとして勤務。その後アパレルブランドで布帛・ニットをはじめとするデザイナーの経験を積み独立。現在フリーランスとして企画・デザイン・パターンを担当。 プロダクトアウトなものづくりからマーケットインまで、偏らないバランス感覚を武器に、コンセプトメイクからお客様に届くまでをディレクションするプランナーとして業界を問わず活動中。

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