ファストファッション追放論はナンセンス

基本的に、発電量は需要を常に10%くらいは上回っている必要があります。
カツカツでやっていると不慮の事故が起きた際にブラックアウトしてしまいます。
ブラックアウトすると、それによってさまざまな事故が起きる可能性がありますから、なるべくそうならないように常に需要よりも10%くらいは発電量が多い方が望ましいのです。

これと同じことが、すべての商材にもいえます。
いわゆるオーダーメイド商品以外は、需要と供給がぴったりと同じになることはありえなく、供給が需要を少し上回ることは服に限らず、食料品、雑貨すべて同じなのです。

洋服業界にはイシキタカイ系と呼ばれる人が少なからずいて、そういう人はファストファッション追放論をぶち上げていますが、もし、それが実現できた暁には、糸、染色加工、生地作り、整理加工、洗い加工、とすべての製造加工工程が破滅してしまうことになるでしょう。

販売員やデザイナーはあまり製造加工の工程については、知識がないことが多いので、ピンとこないかもしれません。

一例を挙げてみます。
日本国内のデニム生地工場の最大手はカイハラです。
カイハラの国内工場の生産量は年間5000万メートルだといわれています。
1反=50メートルですから、100万反を毎年製造していることになります。

5000万メートルというと途方もない数量だと感じてしまいますが、世界で見ると、この生産量はそれほど多くはないのです。

デニム生地工場の大手は中国やトルコにあるのですが、中国やトルコの大手デニム生地工場は、年間に1億メートルのデニム生地を生産しています。カイハラの2倍あります。

デニム生地工場は大量生産・大量販売に適した仕組みと設備なのです。
仮にファストファッションやグローバルブランドを廃止してしまうと、そこに供給しているこれらのデニム生地工場も一緒に倒産してしまうことになります。
昔話の「鶴の恩返し」のように、手織り織機でチマチマと生地を織っているわけではないのです。

完全なるオートメーションの自動織機で毎年莫大な数量の生地を生産しているのです。

デニム生地工場に限らず、他の生地工場もすべて同じです。
染色加工場も縫製工場も同じ仕組みです。
大量生産・大量販売の考え方が基本です。

5年くらい前にリユース、リデュースの流れに乗って、古着やデッドストック商品を染め直して販売をしようと考えた加工場がありました。しかし、古着やデッドストック商品を染め直した場合、少量ならコストが高くなってしまうのです。
結果的に古着なのに、新品よりも高額な価格設定になってしまいます。

染め直したとはいえ、古着なのに新品よりも高いとなると、よほどの物好きしか買いません。

一方、無印良品が自社の古着を無料で引き取って紺色に染め直して販売する「ReMuji」というプロジェクトがあります。
限られた店舗での販売ですが、価格は一律2900円です。

なぜ、染め直しが低価格に抑えられているのかというと、大量に回収した古着を一気に何枚もまとめて紺色に染めているので、一枚当たりの染め工賃が安く抑えられるのです。
ですから一律2900円という定価が設定できるのです。

まさに、大量生産・大量販売の原則を上手く利用したプロジェクトです。おまけに商品の仕入れはタダです。

ファストファッション追放論はまったく現実的ではなく、もし仮に成功してしまったとするなら、製造加工段階の各工場は軒並み倒産・廃業することになります
ファストファッション追放論者はそこまで考えてしゃべっているのでしょうか?甚だ疑問です。

だからファストファッション追放論は全く賛同しないし全く評価しないのです。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

南 充浩
About 南 充浩 163 Articles
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】