D2Cというのは、「卓越した個人、あるいは少人数」が、デジタル技術を活用し、「今までにない発想、大企業ではでてこない発想」を生かしたものづくりを行い、YouTubeやInstagramなどのプラットフォームを使い、マーケティングを行いながら物販、あるいはサービスを提供することなのである。

コンサルタントの河合拓さんのD2C論。大企業の特性として、

・決定の遅さ
・硬直性

を挙げ、「個のパワー」が重要なD2Cは生まれにくいとの指摘。これに関しては全くの同意なのだけど、個人的には「大企業からD2Cは生まれなくていい」と思っている。コロナで店頭が一定期間閉まり、アパレル・ファッション業界はEC狂騒曲の様相を呈している。だからと言って、「D2C」の特性を見誤り、安易に参入を決めると無駄に損失を垂れ流しかねない。

D2Cはスケールしない?

以前、年商2000億円超のアパレル大手のEC統括とお話した際、大企業の新規プロジェクトはある一定規模のスケール感が無いと、どれだけ採算が取れても案が通りにくいと聞いた。確かに2000億円の企業が今更5億円がMAXのブランドを手掛けたところで、手間が増えるだけで旨味は少ない。これに照らし合わせると、図体のでかいアパレル大手が今更D2Cに手を付ける意味は無いと考えられる。

とあるアパレル大手が「20ブランド・100億円のD2C事業」を掲げていたが、個の力が求められる、再現性の極めて低いプロジェクトを1社で数十個作る事が果たして現実的なのだろうか。筆者が観測している限り、日本国内でオンラインからスタートして、店舗出店までしたブランドを含めるとD2CのMAXは30〜40億円だが、では同様のものを3〜4ブランド1社で生み出す事は夢物語に近い。そのブランド運営を手掛ける人物は圧倒的なスタープレイヤーであり、企業に雇用される理由が無い。ちなみに筆者のよく知る、うまく採算が取れているD2Cブランドの年商規模は大体が5000万〜1億円程度。それで100億作ろうとしても途方もない手間になる。

いやいや、アメリカでは指数関数的成長を遂げ80億円規模のシューズブランドが…、と聞こえてきそうだが、市場規模が40兆円を超え競合の状況など環境要因が全く違うアメリカの事例を持ち寄って「指数関数的成長」と言っている方がおかしい。

これらを見てわかる通り、個の力が重要となるD2Cをプロジェクトとして打ち立て、複数展開するのは非常に困難である事がわかる。

自社ブランドのEC化率を高めていく

「既存ブランドのD2C化」と何やら意味不明な話も聞くが、恐らく自社ブランドのEC化率を高めていくといった方針かと思う。こちらに関しては、ユニクロを筆頭に国内で既に進められているから全く否定しない。むしろ、国内市場規模が縮小し続け、店舗出店の余地が小さい日本においてはこれしか方法は無いだろう。

(電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました:経済産業省)

経産省の資料を見ても、物販におけるEC化率は6.76%。衣料品に限っては13.87%と右肩上がりに伸びている。アパレル市場規模が下がっているのだから、リアルでの購買行動がオンラインに徐々に置き換えられているのがすぐわかる。とは言え、まだまだリアルが86%を占めているという事は、既に国内で出店場所を押さえているブランドが圧倒的に優勢ではある。(コロナで比重がもう少し傾きそうな気はしている。)

(店舗数:ファーストリテイリング)

余談だが、グローバルSPAは海外では出店の手をそれほど緩めていない。ユニクロの海外店舗数は右肩上がりであり、認知の低い国で新規獲得していく、また売上を大きく獲得していくには「出店」を超える方法は今のところ存在しない。

最後はM&A?

では大企業は今後、自社ブランドのEC化率を高めていくだけなのだろうか?筆者がもしD2Cブランドを運営するなら、大企業に売却する事を選択する。(ロックアップ期間はあるかもしれないが)理由は、

・生産背景の確保
・物流の充実
・在庫消化の促進

の三点だ。D2Cはオンラインメインの販路の為、スケールしにくいから基本は小ロット生産だ。生産枚数が増えないと価格に対する品質・商品力の向上は難しい。大企業は既にこの生産背景を押さえており、社内に生産に詳しい人員も充実している。過去、業績の良かったインフルエンサーブランド(Maison de ReefurやPlage)が大手アパレルの傘下だった事は周知の事実であり、これが一つの成功要因だと考えている。

同じくスケールメリットが活かせるのは物流設備だ。ECと基幹システムとの連携だけでも結構な費用は発生するし、物流拠点でのささげ対応など、ここが整備されているだけで商品アップのリードタイムにも影響してくる。

最後に在庫消化。D2CにありがちなのはMD設計が杜撰であり、規模拡大してく際に在庫消化が滞っている点だ。アパレルの小売大手であるなら、MD経験者の人員を確保できる可能性は高い。また、ECはその特性上、プロパー消化率が低く、在庫消化する際には値引き販売が主な施策になる。それを一番効率良く実行できるのがアウトレット店だ。大手アパレルの多くは既に複数のアウトレット店を保有している。中にはブランド名ではなく、アウトレット専用店舗として出店している企業も見られるから在庫を出品しやすいだろう。(NEXTDOORやB.C STOCKなど)

大手アパレルも昨今はM&Aが目立ち、自社で商品開発を積極的に進める、という方針の企業は少ないように感じる。辛うじて自社開発に積極的なのはオンワード樫山くらいではないか。これらを鑑みると大手アパレルが今更自社でD2Cブランドを開発していく、という流れは非効率に感じるし、D2Cブランドの多くも多額の出資を受けているのだから上場か売却以外の選択肢しか無いはずだ。D2C関連の話は業界にいると少なからず聞こえてくるが、

「店舗を出店したが売上が伸びず在庫過多。」
「給与が低いから離職が止まらない。」
「業務が整備されていないから既存アパレルに転職しようにもスキルが無い。」

などなど明るい話題ばかりではない。メディアで報道されているような内容は一体どこにいった?と思わされる事多数だ。こういった双方の利害を考えてみると、数年後、国内D2Cの多くが大手アパレルに売却されているかもしれないし、その金額が二束三文の可能性もゼロでは無いのだ。

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