ファッション業界で使われる超曖昧なワードで「世界観」というお言葉があります。曖昧な割に頻出なので、一体何を差しているのやら、わかっていないケースも多々あるでしょう。めちゃくちゃざっくり言いますと、ブランドが提供する価値やイメージの事。しかし、価値提供はブランドによって様々なので、それぞれ具体的に言語化されなければならないのですが、それを端折って「世界観」と言っているのでしょう。

昨今流行りのD2Cは、この「世界観」が強みだと言われているようです。

D2C -「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略

こんな本のサブタイトルにもなっているくらいです。それはもう、ものすごい世界観がD2Cの至るところで素晴らしく体現されている事でしょう。(小並感)

しかし書籍を読み進めるとちょっとした疑問が出てきます。それは価値提供として、

D2Cの強み:ライフスタイル(世界観)

伝統的なブランドの強み:プロダクト(機能)

であると説明があるところですね。果たして、過去ファッションブランドは世界観の作り込みをお座なりにしてきたのでしょうか?ライフスタイル提案という形であれば、BEAMSやユナイテッドアローズのようなセレクトショップは創業時から訴求しています。既に創業40年以上経つショップが創業時から唱えているので、既存ブランドが世界観を無視してきた、もしくは弱点だとは到底思えません。

また、世界観のお手本と言うならそれはD2Cではなく、ラグジュアリーブランドではないでしょうか。ラグジュアリーはWeb上だけでなく、店頭の装飾や什器、空間や販売スタッフを活用して世界観を構築しています。旅行用トランクで創業したルイヴィトンが「旅」というキーワードで世界観の一部を作り上げている事は多くの人が知っている事ではないでしょうか。

https://www.instagram.com/louisvuitton/?hl=ja

では「D2Cは世界観が強み」と言われる由縁は何なのでしょうか?

ソーシャルメディアによるコンテンツの露出

筆者はアパレル・ファッションのECを生業にしていますが、ブランドのリサーチをする際、ECサイトを直接見にいかず、先にInstagramをチェックします。昨今、Instagramのフィード・ハイライト・IGTVで投稿されるコンテンツはECのサイトコンテンツと連動しているケースが多く、入り口となるソーシャルメディアを見る方が何かと効率が良いのです。何せ、リンクをクリックせずとも一覧でコンテンツ・ヴィジュアルがずらっと並んでいるのですから。

これ、ユーザーからしても同様で、ECサイトを見るより簡単にコンテンツに触れる事が可能です。全く知らないブランドで考えてみますと、「店舗を見に行く」「ECを検索してサイトコンテンツをクリックする」と比較して、ソーシャルアカウントを見に行く事は圧倒的にハードルが低いです。更にコンテンツがむき出しになっている状態なので、ブランドが価値提供しているものが何なのかが一目でわかりやすい。

つまり、ソーシャル起点で成長したD2Cブランドは「世界観が強み」というより「ソーシャルに強みがあるから世界観が伝わりやすい」側面があるのではないかと。また、インフルエンサーがブランドについて発信する事が多い為、個人のライフスタイルが発信される事で、

インフルエンサーのライフスタイル(世界観)=ブランドイメージ・世界観

と認識され、ブランドイメージ・世界観が形成されやすくなっているのではないかと思います。

コンセプトメイクの重要性

世界観を形成するのに必要な要素として「ブランドコンセプト」がありますね。先述しました「ブランドが提供する価値」を言語化したものになります。

確かに、一部の大手アパレルが提供するブランドコンセプトがそこまで緻密に考えられていたのか?と言われると疑問です。「大人の」「上質」「こだわり」といったありきたりなワードばかりが蔓延る中、何を基準に世界観を形成しているのか理解に苦しむケースもあるでしょう。

ここに関する筆者の仮説ですが、まだアパレル市場にブランドの選択肢が少なかった頃、極端な表現をすれば、「物を出せば売れる時代」がありました。1990年代のSPAはプロパー消化率で90%を超えていた訳ですから。

そういった時代に規模拡大できた企業は、多店舗展開により市場を席巻し、認知度が上がり顧客が増えました。結果、ブランドとして成り立ったのではないかと。大手アパレルのコンセプトメイクが未だに稚拙に見えるのは、そういった時代背景があるからだと推測しています。そのような内容でも、顧客リストさえ持っていれば、新しいブランドを創設した段階で通知する事が可能ですし、売上は取れますからね。もちろん物自体が良かった事もありますが、それだけ顧客リストを保有しているというのは強みになるのです。

しかし後発の企業は、大手がシェアを広げた市場に商品を流通させる事が困難な為、まずはソーシャルメディア等で情報発信をし、コンセプトが刺さるかどうかを判断しなければなりません。つまり、時代背景により過去とは逆のアプローチを取らざるを得ないのです。だからこそ昨今、コンセプトメイクがより重要になったと感じています。ですが、これは何もD2Cだけの事情ではなく、既存アパレルも同様ですね。何度も言いますが、コンセプト・ストーリーに関してはラグジュアリーが一番力を入れてきたのですから。

時代背景やツールの変化によりD2Cこそ”世界観に強みがある”に変換されていますが、D2Cでなくともこの条件を満たしているブランドは多々あります。ラグジュアリーなんて最も「伝統的」なブランドですし、強みが「プロダクト」しか無いのであれば、あれだけの営業利益率を叩き出す事は不可能でしょう。(ラグジュアリーの多くは営業利益率が20%を超えています。)

D2Cが世界観に強みを持っている事は否定しませんが、それは「D2Cだけ」の強みではありません。また、世界観の構築にD2Cという「スキーム」は全く関係ありません。このあたりを間違って捉えてしまうとブランド作った後に地獄見るかもしれませんので、D2Cやりたい人はお気をつけください。何となくInstagramの背景カラーやトーンだけを合わせて、インフルエンサーマーケティングでごりごり拡散する事を「世界観の構築」とは言わないのです。

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