このところ、業界では「原価率50%」の話題が増えていますが、一概に原価率が高いから良い商品だとはいえません。
洋服なんてものは、いくらバカ高い生地を使おうともデザイン、シルエットが不格好なら売れません。
例えば、和歌山県の高野山のふもとに生地の産地があります。高野山のふもとだから「高野口」と呼ばれていて、フェイクファーの産地です。
昔からある産地なのですが、知らない人も多いかもしれません。トップセラーのメンバーの深地雅也さんも知らなかったので、もしかしたら、知らない人の方がほとんどなのかもしれません。
ここの産地で作られたフェイクファーは1メートルあたり2000円とか3000円という値段も珍しくありません。じゃあ、仮にこの産地の1メートル3000円くらいのフェイクファーを使って、クソダサいデザインのブルゾンを作ったとしましょう。
ブルゾンだと用尺はだいたい2メートルということで、生地値は6000円になります。
縫製工賃やら何やらを入れて、製造原価はだいたい1万円になると思いますが、これを2万円で販売したとすると、製造原価は50%になります。でもデザインは超ダサいです。
いくら、製造原価が高くても売れないでしょう。
一方、ラグジュアリーブランドは高級素材を使っていると信じられていますが、商品によってはそうでもありません。某ラグジュアリーブランドがジーンズに使用しているデニム生地は、日本製で、1メートル700円くらいの定番デニム生地です。
定番デニム生地なのでもちろん、9000円くらいの国内ブランドのジーンズにも使用されています。生地だけでいえば、まったく同じです。でも店頭販売価格は5~10倍くらい違います。
ラグジュアリーブランドのジーンズは果たして「粗悪品」でしょうか?
原価率が取り沙汰されるようになったのは、旧大手アパレルの百貨店向け・専門店向けブランドの商品が2008年以降チープに見えることが増えたからです。
チープ感が増した理由の一つとして、粗利を稼ぐために素材・縫製のクオリティをダウンさせていることがあります。ただ単に「素材・縫製クオリティを下げている」と指摘しても、業界外の人にとってはどれくらいグレードダウンさせているのかわかりません。
ですから、その指標として「原価率」を使ったのです。実際に、原価率は平均で30%くらいから10%前後下がっており、18%とか20%にまで下がっているブランドは少なくありません。
しかし、指標が原価率しかなかったからであり、別のナンタラ指数とかナンタラ係数という指標があったならそちらを使えばよかっただけのことであり、原価率の指標は絶対ではありません。
原価率は一つの参考になる指標ではありますが、これを絶対的なものとしてとらえ、ましてやセールスポイントにするというのは、実のところ、ブランドは自分で自分の首を絞めていることになりかねないのです。言ってみれば諸刃の剣のような売り方なのです。
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