日本製の衣料品、生地、染色に対して、良いイメージを持つ人が多いと思うのですが、実際のところ、日本製の何が優れているのかを具体的に、他社にもわかりやすく説明できる人は少ないと思います。
一般消費者はもちろんのこと、アパレル業界で働く人も日本製品の良さを理解している人は多くはありません。
じゃあ、自分はどうなんだといわれると完全に理解はできていませんし、上手く説明できるかどうかもわかりません。この数年なんとなく、見えてきた部分がありますので、それを伝えることでみなさんの考える一端になればと思います。
日本製という言葉にはそれなりの良いイメージがあると思いますが、すべての日本製が優れているわけではありません。5年位前からの日本製ブームによって、にわかに日本製衣料品に手を出したブランド、OEM業者は山ほどいあす。しかし、彼らの中には、日本の工場の仕事ぶりを見て失望した人も少なからずいます。
きちんと伝えたはずなのに、仕様書通りに仕上がっていないとか、勝手な解釈で全然ちがうディティールに仕上がっているとかそういう事例は本当に日常茶飯事です。
同じ日本語という言語で意思疎通ができているはずなのに、まったく伝わっていないこともしばしばあります。
これに懲りた人は「日本製なんて実はたいしたことがない」という意見を持ってしまいます。
そして、次には「日本の工場は設備も古く老朽化しているが、中国をはじめアジア各国は最新鋭の機械を備えている。モノづくりはアジアのほうが上だ」という紋切型の自虐に陥ります。
しかし、そう決めつけるのは早計なのです。
たしかに国内工場の中には意思の疎通がまるでできない工場もありますし、こちらが目を光らせていないと如実に手を抜く工場もあります。ですが、アジアの工場だって同じです。ハイレベルな工場もあればまるでダメな工場も多々あります。
それに、こと衣料品や繊維製品に限って言えば、製造加工場の機械設備が最新鋭であることは必ずしも優れているとは限らないのです。逆もしかりで、機械設備が旧式であることと劣っていることは同じではありません。
これは繊維製品という物が、機械類に比べて極めてあいまいで原始的な製品だからではないでしょうか。
機械類で1ミリ狂えば、その機械は用をなしません。確実に不良品です。しかし、衣料品の場合、縫い幅が1ミリ狂ったところで機能性はほとんど変わりませんし、不良品にもなりません。
それほどにあいまいな製品だから製造加工の機械設備が少々旧型でも、出来上がる製品が必ずしも劣っているとは限らないのです。
以前、取材した靴下工場の話です。
その靴下工場は、大阪府松原市にあるコーマという工場です。
足の形に合わせた3D編みという技術を開発しました。この3D編みを生かして、スポーツソックスを製造しています。
3D編みで編まれた靴下は部位によって、編地が異なるのです。
例えば、土踏まずにあたる部分は反発力があるように、また親指の下の部分は少し厚めに、というように部位によって編み方を変えているのです。
そんな複雑な編み方はどのような最新鋭の編み機で編まれているのかと期待していたら、それを編んでいる機械は極めて古い編み機だったのです。現在ではもう機械メーカーも製造していないほどの旧型です。
その編み機を熟練の職人が独自に編み出した調整法で部位ごとに編地を変えているのです。
機械メーカーによると、その機械ではそんな編み方はできないはずなのだそうですが、職人の調節によってそんな複雑な編地が出来上がるのです。逆に最新鋭編み機ではこんな編み方はできないのだそうです。
これは一例ですが、日本製の良さというのはこういう部分にあるのではないかと思いました。
職人の経験と努力で、旧型の機械を使って、最新鋭の機械ではできないような製法を編み出す。
こういう部分が日本製の良さの一つではないでしょうか。
衣料品とは本当にわかりにくい製品で、最新鋭機で作ったからと言って必ずしもそれが評価されるわけでもないし、むしろ旧型機で作られた物のほうが評価が高いことも珍しくありません。
例えば、旧型の力織機で織ったデニム生地が高く評価されているのはその一つの例だといえます。そしてその力織機が多数残っている国は我が国日本なのです。
日本製の繊維製品を無批判に高評価する必要はまるでありませんが、似非グローバリストのように自虐する必要もありません。具体的にどこが優れているのか、それは製造加工業者はもっと伝えなくてはなりませんし、消費者に伝える窓口である販売員もその根本的な部分を知る必要があります。
それがないままで「日本製」をクローズアップすることは百害あって一利なしです。
アパレル業界は、製造加工業者から店頭の販売員まで、情報の共有化を進める必要があるのではないでしょうか。