「ホールガーメント」を詳しく解説

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ZOZOの発表によって、一躍話題になったホールガーメントですが、販売員のみなさんはホールガーメントが何かをご存知でしょうか?

当然「そんなもん知ってるで~」という人もおられるでしょう。しかし、もし知らないという人がおられたら、この記事で説明するので基本的な知識として活用してください。

ホールガーメントで作れるのはニット類だけ

ZOZOの会見の著しくグレーゾーンな言い方によって、一部に「ホールガーメントでどんな服でも一体成型で作れる」みたいな事実誤認が多数生まれましたが、ホールガーメントで作れるのはニット類だけです。

織物を使った服はホールガーメントでは作れません。それと芯地を挟み込んだり、裏地を取り付けたりするような服も作れません。

芯地が挟み込まれ、袖裏と背裏が必要なテーラードジャケットはホールガーメントでは絶対に作れないのです。

なぜ、作れないのかというと、織物と編み物は生地の構造がまるで異なるからです。そして、それを作る機械である織機と編み機もまるで構造が異なるからです。

例えば、脇部分に縫い目のないTシャツというのは時々見かけます。ジーユーだって今夏、サイドシームレスのTシャツを販売しています。これは胴体部分をあらかじめ筒状に編んでいるから可能になるのです。

編み物はこのように、筒状に編むことが可能なのです。これを通常、丸編みと呼びます。

しかし、織物は筒状に生地を織ることはできませんし、そんな織機は現在に至るまで開発されていません。

筒状に編むことができるのですから、それを応用すればセーター類を一体成型で編めることに原理上なります。これがホールガーメントという編み機の特性です。

ホールガーメントは20年以上前から存在する技術

ZOZOの導入で一躍注目を集め、専門外の人が頓珍漢な説明をすることも増えたホールガーメントですが、すでにユニクロは導入しており、今春夏商品も一部にホールガーメント製の製品があります。

ホールガーメントという技術を「最新鋭技術」のように認識している人が増えたように感じますが、ホールガーメント自体は新機種でもなんでもなく、20年以上前に開発された機械です。この20年間多くのブランドがホールガーメント製のセーターを販売してきました。

島精機が一体成型のセーターを編むために製造した編み機で、島精機製作所のサイトには、95年に展示会に出品したことが記録されています。

http://www.shimaseiki.co.jp/wholegarment/

また同じページには、96年に繊研新聞社の繊研賞を受賞したことも書かれています。展示会出展から24年、最初の受賞から23年が経過しており、言ってみれば四半世紀前に開発された技術なのです。

もちろん、この24年間でホールガーメントの技術も進歩していますが、何もつい最近開発された最新鋭技術ではないということです。

ちなみに当方は10年くらい前に、ジーンズメイトで販売されていたジムという老舗セーターメーカーのホールガーメントセーターを買ったことがあります。定価5900円が990円くらいに値下がりしてたので買ってしまいました(笑)。

それほどにホールガーメントというのはすでにあちこちのブランドで使われていた編み機なのです。

ホールガーメントセーターの着心地は良い?

ホールガーメントによるセーターは一体成型で「着心地が良くて、フィットする」とその利点が強調されますが、無縫製だから着心地が良いというのは個人的には疑問しか感じません。

前述したジムのホールガーメントセーターを着用した感想でいうと、「普通のセーターと何ら変わらない」です。

なぜなら、セーターというのは素肌に直接着用するのではなく、Tシャツやシャツの上から着用します。このため、内側に縫い目があっても直接肌に触れることはありません。ですから、縫い目があろうがなかろうが着用感にほとんど変わりはありません。

また「フィットする」という部分も疑問しか感じません。ピタピタにフィットさせてセーターを着る人がどれほど存在するのでしょう。もしあるとするとファインゲージのタートルセーターくらいではないでしょうか。当方が買ったジムのホールガーメントセーターはそこまでピタピタなデザインではありませんでした。

逆にホールガーメントを使って、ルーズなシルエットのセーターも編めるのです。この場合、フィット感はまったく必要とされません。

ルーズフィットなビッグジョンのホールガーメントセーター

 

さらにいえば、セーターは必ず伸びますから、いくら「フィット」させても長期間着続けると伸びてフィットしなくなります。これはTシャツやカットソーにも言えることです。

ですから、どこぞの通販サイトのPBで「ミリ単位のフィット感」を謳ってTシャツやセーターを発売するのは非常にナンセンスなことで、セーターやTシャツの生地はミリ単位どころかセンチ単位で伸びるのです。ホールガーメントセーターが「フィット感」を過剰に謳うことも同様にナンセンスなことです。

ホールガーメントの本当のメリット

ではホールガーメントは何がメリットなのかというと、着心地やフィット感wwwではなく、製造側にメリットがあります。通常のセーターはネックや裾部分にリブがつないであり、この技術を「リンキング」とか「リンキング編み」とか呼ぶのですが、セーターの生地とリブ生地をいわば極細の糸で編み合わせているのです。

ところが、国内ではこの「リンキング」専門の工場が激減しています。現存している工場でも技術者が高齢化しており、あと何年続けられるかわかりません。リンキングは極細の糸を使って編み合わせるために、目を酷使するので、高齢化して視力が衰えると作業できなくなります。そして高齢化した技術者が引退すれば、後継者はいません。こんなしんどくて割に合わない仕事を継ぎたいという若い人は少ないからです。

ホールガーメントは一体成型なので、リンキングを必要としません。ですから、本来の用途は、リンキング工場がなくなってもセーターを製造できるように開発された機械だといえます。

セーターの製造もそれに伴ってリンキングの工場も中国をはじめとするアジア地区が中心となりました。しかし、経済発展に伴って、中国でも繊維の製造加工場に勤める若者は減っています。もっと割の良い仕事が溢れているからです。もちろん、リンキング工場も同様です。

ですから、アジア地区でも早晩リンキング工場は徐々に姿を消していくことになります。

ホールガーメントはそうした動きをカバーして今後もセーターを製造し続けることができる機械です。そしてホールガーメントはその部分にもっとも存在意義があるのです。

そこを認識せずに「着心地」や「フィット感」のみを強調してもまったく意味がないのです。

そしてホールガーメントは決して特別で希少なセーターなどではなく、機械を買って、そこに送るプログラムをいじれるならどんなブランドでも導入が可能なのです。ビッグジョンだって数型だけですが、ホールガーメントのセーターを発売しています。

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南 充浩
About 南 充浩 164 Articles
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】

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