ユニクロとの提携が報じられてからホールガーメントという技術を「最新鋭技術」のように認識している人が増えたように感じますが、ホールガーメントというのは、実は20年以上前からあります。
ホールガーメントというのは、一体成型のセーターを編むために島精機が製造した編み機で、島精機製作所のサイトには、95年に展示会に出品したことが記録されています。
http://www.shimaseiki.co.jp/wholegarment/
また同じページには、96年に繊研新聞社の繊研賞を受賞したことも書かれています。
展示会出展から24年、最初の受賞から23年が経過しており、言ってみれば四半世紀前に開発された技術なのです。
もちろん、この24年間でホールガーメントの技術も進歩していますが、何もつい最近開発された最新鋭技術ではないということです。
ちなみに当方は10年くらい前に、ジーンズメイトで販売されていたジムという老舗セーターメーカーのホールガーメントセーターを買ったことがあります。定価5900円が990円くらいに値下がりしてたので買ってしまいました。(笑)
ホールガーメントによるセーターは一体成型で「着心地が良くて、フィットする」とその利点が強調されますが、個人的には疑問しか感じません。
ジムのホールガーメントセーターを着用した感想でいうと、「普通のセーターと何ら変わらない」です。
なぜなら、セーターというのは素肌に直接着用するのではなく、Tシャツやシャツの上から着用します。このため、内側に縫い目があっても直接肌に触れることはありません。ですから、縫い目があろうがなかろうが着用感にほとんど変わりはありません。
また「フィットする」という部分も疑問しか感じません。ピタピタにフィットさせてセーターを着る人がどれほど存在するのでしょう。もしあるとするとファインゲージのタートルセーターくらいではないでしょうか。当方が買ったジムのホールガーメントセーターはそこまでピタピタなデザインではありませんでした。
逆にホールガーメントを使って、ルーズなシルエットのセーターも編めるのです。この場合、フィット感はまったく必要とされません。
さらにいえば、セーターは必ず伸びますから、いくら「フィット」させても長期間着続けると伸びてフィットしなくなります。これはTシャツやカットソーにも言えることです。
ですから、どこぞの通販サイトのPBで「ミリ単位のフィット感」を謳ってTシャツやセーターを発売するのは非常にナンセンスなことで、セーターやTシャツの生地はミリ単位どころかセンチ単位で伸びるのです。
ホールガーメントセーターが「フィット感」を過剰に謳うことも同様にナンセンスなことです。
ではホールガーメントは何がメリットなのかというと、着心地とかフィット感wwwではなく、製造側にメリットがあります。
通常のセーターはネックや裾部分にリブがつないであり、この技術を「リンキング」とか「リンキング編み」とか呼ぶのですが、セーターの生地とリブ生地をいわば極細の糸で編み合わせているのです。
ところが、国内ではこの「リンキング」専門の工場が激減しています。現存している工場でも技術者が高齢化しており、あと何年続けられるかわかりません。
リンキングは極細の糸を使って編み合わせるために、目を酷使するので、高齢化して視力が衰えると作業できなくなります。
そして高齢化した技術者が引退すれば、後継者はいません。こんなしんどくて割に合わない仕事を継ぎたいという若い人は少ないからです。
ホールガーメントは一体成型なので、リンキングを必要としません。ですから、本来の用途は、リンキング工場がなくなってもセーターを製造できるように開発された機械だといえます。
セーターの製造もそれに伴ってリンキングの工場も中国をはじめとするアジア地区が中心となりました。しかし、経済発展に伴って、中国でも繊維の製造加工場に勤める若者は減っています。もっと割の良い仕事が溢れているからです。もちろん、リンキング工場も同様です。
ですから、アジア地区でも早晩リンキング工場は徐々に姿を消していくことになります。
ホールガーメントはそうした動きをカバーして今後もセーターを製造し続けることができる機械です。そしてホールガーメントはその部分にもっとも存在意義があるのです。
そこを認識せずに「着心地」や「フィット感」のみを強調してもまったく意味がないのです。
そしてホールガーメントは決して特別で希少なセーターなどではなく、機械を買って、そこに送るプログラムをいじれるならどんなブランドでも導入が可能なのです。ビッグジョンだって数型だけですが、ホールガーメントのセーターを発売しています。