ニトリの似鳥社長の言葉を借りずとも、業界に働いておられるみなさんなら「大資本による寡占化が進んでいる」と感じているのではないでしょうか。
DCブーム華やかなりし80年代、バブル崩壊後もインディーズブランドが注目された90年代には、業界では広く「小さいアパレルブランドが乱立する多様性のある社会に向かっている」と信じられていました。
若かった当方もそんな幻覚を見たおぼえがあります。
はっきり言ってそれは幻覚に過ぎませんでした。
2000年以降見えてきたのは大手による寡占化です。
その大手も90年代までの大手ではありません。
新大手です。ユニクロとジーユーを擁するファーストリテイリング、一時期「コロスカンパニー」とまで揶揄されたストライプインターナショナル、ユナイテッドアローズ、アダストリアホールディングスなどなどです。
今、どの商業施設を見ても入店するテナントはほとんど同じです。
入店するテナントでの差別化なんてまったく不可能です。
そしてこの「寡占化」はさらに進むと考えられます。
なぜなら、大手とそれ以外の資本力の格差はさらに開くからです。
アパレル業界は販売不振といってもユニクロは8000億円を越えてなお売上高が伸びています。
一方、旧来型の小型アパレルは、ウェブサイト運営費の月々5万円さえも支払えない状況にあります。
同じ業種とはまったく思えません。
先日、三井物産が落日の大手、ビギを買収しました。
落日とはいえ、ビギはまだ年商500億円もありましたが、三井物産はそれを上回る超大手商社です。
こういう買収が近年増えていますし、これからはさらに増えるでしょう。
例えば、近いところで起きた例だと、繊維専門商社ヤギによるタトラスとアタッチメントの買収です。
販売員のみなさんにはなじみのないヤギという会社ですが、売上高は1000億円を越える専門商社です。
小資本のアタッチメントは飲み込まれてしまいました。
また、売上高が100億円そこそこしかないトウキョウベースに、もっと小資本のファセッタズムも飲み込まれてしまいました。
こういうブランド買収は今後、国内ではさらに増えるでしょう。
それこそインディーズデザイナーズブランドなんて個人商店以下の売上高しかないところが多くあります。
もっとも「買う価値」のあるインディーズブランドなんてほんの一握りあるかないかですが。
ただ、大手による買収が必ずしも上手く行くとも限りません。
日鉄住金による遊心クリエイションの買収は失敗に終わり、遊心クリエイションは解散になりました。
また興和による老舗百貨店・丸栄の買収も失敗に終わり、丸栄百貨店の閉鎖が発表になりました。
大手がカネだけ注ぎ込んでもダメだという好例です。
ただ、80年代・90年代に夢想された多様性のある業界なんていうのは絶対に実現されないということだけはたしかです。
大手と異なる切り口を提示でき、ファンを獲得できない小規模ブランドは大手に飲み込まれるか、淘汰されるかのどちらかしかありません。