一生物の洋服なんてほとんどない

そういえば、2年ほど前大流行した「バイカラー」の洋服はどうなったのでしょうか?

アーバンリサーチの「センスオブプレイス」ではバイカラーのセーターが昨年秋から販売されているので、セーター類は今でもブランドによっては売られているということがわかります。

ところでジャケットやコート類はどうなったのでしょうか?2016秋冬シーズンではすっかり見かけなくなってしまいました。バイカラーで切り替えられたジャケットやコートを見ると、「すごくおかしい」とは思いませんが、2年くらい前に買った商品だなと思ってしまいます。

トレンドアイテムにも寿命の長短があって、長期間に渡って愛好され続け定番化してしまうものもありますし、非常に短期間で終わってしまうものがあります。前者はスキニージーンズが代表例だといえますし、バイカラーのコートやジャケットは後者の代表例だといえます。

その昔、バブルのころにはとくに男性向けのスーツやコートなどで「一生物ですよ」というセールストークが多く使われました。ぼくもそんなことをアパレル販売員さんから言われたこともあります。

しかし、時が流れて、この業界で20年以上暮らしていると、「一生物」なんていう洋服はほとんど存在しないことがわかります。バイカラーのコート、ジャケットはいくら良い素材を使っていようが、どれだけ手の込んだ縫製仕様をしていようが、一生物ではありませんね。

バイカラーのコート、ジャケットは2年前に一時的に流行っただけの短命トレンドアイテムにすぎません。

洋服は生地や縫製仕様だけが価値ではありません。色・柄・シルエットが時代によって変化します。バイカラーは色・柄という点でのトレンドで、そのトレンドは短命に終わりました。今年バイカラーのコート、ジャケットを着ていたら、いくら良い素材でも「ちょっと古い」と見られてしまいます。

形、シルエットにしても同様です。現在、15年ぶりぐらいにビッグシルエットがトレンドに浮上しています。80年代半ばから90年代半ばまで全盛だったビッグシルエットの洋服ですが、現在の物とは同じビッグシルエットでも少し異なります。

当時のビッグシルエットは袖も太かったわけですが、業界ではこれをアームホールが大きいと言います。

当時のコート類、ジャケット類、ブルゾン類はかなり袖自体が太かったのですが、今のビッグシルエットは袖は細目に作られています。これまで全盛だったタイトシルエットの要素が盛り込まれています。

いくら、バブル当時に良い素材で良い縫製仕様のビッグシルエットのコートやスーツを買っていたとしても、現在再びこれを着用することは避けた方が良いでしょう。

知り合いの縫製工場が、バブル期の「一生物」といわれたジャケットのお直しを依頼されたそうですが、「このジャケットはどんなに全面的に直しても今のシルエットにはなりませんから、捨てた方が良いでしょう」とアドバイスしたそうです。

こうして冷静に考えてみると、洋服において「一生物」という商品はほとんど存在しえないということがわかります。「一生物」たりえるのは腕時計や皮革製バッグ、貴金属アクセサリーなどそういう服飾雑貨アイテムに限られるのではないでしょうか。色・柄・デザイン・シルエットのトレンドが定期的に変わり、腕時計などに比べると耐久性にも劣る洋服は一生物であることは難しいといえます。

また、腕時計や皮革製バッグ、貴金属アクセサリーなどは使い込んだ商品でも保存状態が良ければ、質に入れたり高値で転売することも可能ですが、洋服はなかなか難しいでしょう。30年前や40年前の洋服なんていくら素材が良くても今現在着用することは流行の面で難しいので、商品価値は著しく低くなります。

このあたりのことを考えても「一生物」の洋服というのは成立しづらいのが実態ではないでしょうか。

アパレル販売員の皆さんには「一生物ですよ」なんてセールストークは使ってほしくありませんし、また消費者の皆さんには一生物の洋服なんてごくわずかしか存在しえないということを理解してもらいたいと思います。

 

 

 

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南 充浩
About 南 充浩 163 Articles
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】