今日は小話を一つ。
先日、某テイラーに取材に伺った。
創業95年だそうで、今は3代目の社長だそうです。
30年前に家業を継いだときに、周りの人から
「もうテイラーなんて終わるよ。安い既製服が増えているし、テイラーを縫える職人も減っているし」
と言われたとのことで、ご本人もその通りだなと思ったとのことです。
当方だってその立場と業界情勢ならそう思います。
しかし、30年経ってもいまだにテイラーはあります。
逆にフルオーダーとは異なりますが、パターンオーダーの低価格スーツが増えています。
今なら、1着3万円台でパターンオーダースーツが作れます。
グローバルスタイルなら2着48000円と謳っているので、1着あたりは2万4000円でしょうか。
また、社長によると、職人もいなくなっていないそうです。
30年前の職人が今も現役で縫っているということも考えられなくもありません。
当時30代なら今はまだ60代、40代なら70代で現役でできなくもありません。
しかし、当時の50代はもう現役では無理でしょうから、その分、減っていてもおかしくはないですが、職人の門を叩く20代・30代が定期的に出現しているようで、その分、職人人口は激減していないとのことです。
なんだかおかしなもので、なくなると思われていた業種が存続するということもあります。
現在、AIや自動化によってなくなると考えられている職種がいくつもあります。
逆にこれは残るだろうと思われている職種もあります。
しかし、実際に現実になってみないとその答えは出ません。
30年前にフルオーダーではないにしろ、パターンオーダーがここまで低価格化して流行するとだれが思ったでしょうか。
オーダーの職人が残れるとだれが考えたでしょうか。
ですから、ある程度のシミュレーションは必要ですが、シミュレーションがすべて正しいとは限らないのです。
パターンオーダーが流行した理由は、
1、3万円台の低価格化が実現したこと
2、大手が既製服で在庫を抱えるのを嫌がってパターンオーダーを積極的に売ったこと
3、袖や裾、ウエストなどを自分に合わせて作ってもらえること。購入後のお直しが必要ない
この3つが考えられます。
やはり低価格化は商品の普及に欠かせないことがわかります。
最近の衣料品業界は長年のデフレに耐えかねて低価格品叩きに躍起になっていますが、それはまったく意味のないことで、衣料品を貴族や富豪だけが楽しめた時代に逆戻りさせるだけのことです。
業界で働いている人は貴族や富豪ばかりなのでしょうか?
当方には、顔つき・言動・身に着けている衣服をトータルで判断して、とてもそうは見えません。
彼らは却って、自分で自分の首を絞めているだけとしか思えません。