「流行り物ツール」に極度に弱いアパレル業界の目下のトレンドは、AI(人工知能)です。
アパレル業界には物事を深く考えない人が多いですから、AIを導入すればたちどころに業績が上向くと考えます。この「AI」をほかのツールに変えれば、何十年も同じ失敗を繰り返してきたのがアパレル業界です。
「アパレル業界の懲りない面々」とでも題した映画が作られてもおかしくないほどです。
古くは「SPA(製造小売り)化」「QR(クイックレスポンス)対応」でしたし、少し前だと「ライフスタイル提案型売り場」でした。5年くらい前は「ネット通販」でした。
どれもこれも「それを単に導入しただけ」では決して業績は上向きません。
アパレル業界、とくに経営陣を含めた年配層がこういう志向に陥るのは、若い頃に「流行り物を導入すればたちどころに売り上げが伸びた」という経験をしたからなのでしょう。
その頃とは社会状況も個人の生活環境も変わっているのに、その黄金パターンを捨てられずにいるというのが、アパレル業界の年配層なのではないかと常々見ています。
単にAIを導入しただけでは、売上高は伸びませんし在庫は削減されません。
某百貨店向け大手アパレルはAI企業2社と契約をするという無駄なことをしています。「船頭多くして船 山に上る」という状況に陥りかねませんし、何よりも費用が無駄です。
業界内部の噂話では2社に15億円をつぎ込んでいるといわれますが、この大手アパレルは社員をリストラしているのです。社員を大量リストラして、要らない会社と多額の契約を結ぶとは本末転倒もよいところです。
また、別の大手SPA企業では「AIの導入によって在庫が大幅削減された」と公式発表しているにもかかわらず、不良在庫を下げ渡すバッタ屋との契約軒数を増やしています。
本当に公式発表通りに在庫が大幅に削減されたのかどうか疑わしいものです。
「AIによる需要予測で売上高が伸びる」といわれていますが、これも眉唾でしかありません。例えば、「コバルトブルーのスクエアネックセーターが流行る」とAIがはじき出したとして、国内にある何万軒という全ブランドが同じ商品を発売したらどうなるでしょうか。
個人の消費者が選ぶのは1ブランド、多くても2ブランドです。残りの何万何千軒というブランドは選ばれません。売れ残ってバッタ屋に払い下げるか、減損処理をして棄てるしかありません。
何十年か後には技術が進歩して自律型AIが登場するのかもしれませんが、現在の技術では不可能です。
先日、「めざましテレビ」内の「きょうのわんこ」を見ていたところ、続けて天気予報が流れました。なんと「AI天気予報」です。どんな内容なのかというとAIで予報するのではなく、その気温で道行く人々がどんな服装をしているのかをAIで統計的に発表するというものです。
肌寒いのでコートを着用している人が61%
というふうに。
これが今現在のもっともAIの有効的な活用法ではないかと思います。
過去の「流行り物ツール」がそうだったようにAIも決してすべての問題を解決する「魔法の杖」などではないのです。