世界で通用する日本の繊維製造加工業者もある

日本のファッション産業、繊維・衣料品の製造加工業は落日だとの報道が定番化し、業界人もそのように見ていますが、事実でしょうか?
もちろん、一面では事実ですが、すべて事実ではありません。
日本の繊維産業はまったく海外に通用していないというのは事実ではありません。

海外ブランドだって一概には日本では売れないのですが、それはまた別の機会にまわしましょう。

思いつくままに世界で通用する日本の繊維産業をいくつか挙げてみましょう。

まず、デニム生地ですが、これはカイハラとクロキでしょう。
両社ともデニム生地工場です。
カイハラはユニクロへのデニム生地供給が知られていますが、GAPやデンハムなど欧米ブランドへのデニム生地供給も多くあります。
また、カイハラは長年、国内工場のみで製造を続けてきましたが、タイに初の海外直営工場を建設し、2016年から稼働開始しました。

クロキはカイハラに比べると知名度がありませんが、海外、とくに欧米でカイハラ以上の高い評価を受けています。
クロキの売上高の7割が海外輸出で、主にラグジュアリーブランドが売り先です。
ルイ・ヴィトンやグッチ、プラダなどラグジュアリーブランドには軒並み販売しています。

大阪の御堂筋沿いには欧米ラグジュアリーブランドの直営店が軒を連ねていますが、クロキがデニム生地を納入していないブランドは片手で数えられるほどしかないといわれています。
それほどに欧米ラグジュアリーブランドには圧倒的な支持を得ています。

同じく、デニム関連でいえば、洗い加工場の西江デニムもあります。
こちらは、国内工場のほかに中国工場も運営しています。
ユニクロのジーンズの洗い加工などを中国工場で受けています。

繊維の製造加工業者は海外工場に押されているといわれますが、西江デニムやカイハラのように、自ら海外へ自社工場を作る場合もあるのです。それが知られていない場合が多いのです。
ですから、海外工場にサンドバックのように打ちのめされているというイメージができてしまっているのです。

ちょっと規模が小さいところでは、ジーンズ関連のOEM生産を手掛けるM&Rという京都の会社がありますが、これは直営の縫製工場をベトナムに所有しています。

海外工場に押されているといえば、縫製工場もそういうイメージで見られがちですが、そうではない縫製工場もあります。

つい先日、上場した縫製のマツオカコーポレーションです。
ベトナムやミャンマー、バングラディシュなどに自社縫製工場を所有しています。
年間売上高は570億円もあります。
これはすべて縫製工賃で稼いだ売上高です。

縫製工場の世界ランキングで12位に位置しており、今後、さらに売上高を伸ばして世界10位を目指すと宣言しています。

ざっと思いつくままに挙げてみましたが、こういう日本の製造加工業はまだまだあります。

たしかに日本の繊維産業は厳しい状況にありますが、中には自ら海外へ進出し、世界的に高い評価を受けているところもあります。
要はその工場の経営者のやる気次第であり、経営者がやる気なら、まだまだ世界で戦える実力を秘めているのです。

国内工場を妄信するのは危険な行為ですが、反対に国内工場を「ガラパゴス」だと決めつけるのも危険極まりない行為です。
過剰な自国への自虐は百害あって一利なしです。

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南 充浩
About 南 充浩 163 Articles
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】