事業承継について

このトップセラーにはちょっと似つかわしくないかもしれないが、今回は事業承継について思うところを書いてみたい。

トップセラー読者は承継する方ではなく、される方だろうと思う。

 

個人的には家業の世襲というのには反対ではない。

息子や娘、孫に継がせたいと思う気持ちは理解できる。

 

当方も来年50歳になるから初老のジジイである。

とは言っても、多くの同世代のオーナーさんはこれからまだ、短くても15年、長ければ25年くらい仕事をすることになる。

25年間くらい繊維・アパレル業界を見てきていると、製造加工業者だけでなく、多くのアパレルも息子や娘、孫へと事業承継されることが多い。

特に中小、零細アパレルはそうだ。

外部の人はわざわざ不安定な中小、零細アパレルの社長なんてやりたくもないから成り手がいないという場合もあるだろう。(笑)

 

百貨店なんかは昔は各百貨店とも創業家が社長を務めていたが90年代には世襲は終了し、外部の人間が社長を務めるようになった。

 

当方の長男も今年就職した。

もちろん繊維アパレル業界ではない。また業界紙関係でもない。極めてまともな選択をしたと評価している。父親が頼りないと息子はしっかりするらしい。(笑)

 

で、ふと、自分も引退までの残り時間を数える年齢にさしかったのだと思った。

もちろん、当方の仕事は事業承継しない。してほしいという人もいないだろう。

 

多くの繊維・アパレル企業のように事業承継する立場だったらどうだろうと考えてみた。

世間で持て囃されるイクメンのように息子に一体感や深い愛情を感じたことはない。もちろん、小さい頃はそれなりにかわいいとは思ったがあくまでもそれなりである。

また、遺伝子検査をしていないから確実とはいえないが、多分血はつながっているだろうからなんとなくは血族意識もある。

しかし、当方からすると育ててこれたのは義務と責任という思いがほとんどだった。

 

で、そんな息子に対してもし、不安定なアパレル企業を継承する立場だったとすれば、当方は事業承継しないだろうと思う。恐らく外部の人間に経営権を渡す。

そのうえで、オーナー的に年間何十万円とか何百万円とかの配当金や上納金を受け取る立場に据えてやりたいと思う。

 

アパレルにはけっこうな大手でも息子に社長を継承して、その息子の能力が足りずに「若社長ならぬバカ社長」という会社が多くある。

T社とかP社とかR社とか買収される前のJ社とか買収される前のI社とか数え上げればきりがないほどである。

 

明らかに息子の能力が足りないことは、それなりの実績を積んだ前社長たる父親はわかっていたのではないかと思う。それでも息子に事業を継がせたいものなのだろうか。同じ父親としてはその気持ちは全く理解できない。

能力がない息子に継がせれば、多くの場合で、苦悩する。そんな苦悩をわざわざ息子に味合わせたいとは当方は思えない。

不労所得が確実に入ってくるようになった方が息子は幸せなのではないかと思う。少なくとも当方が息子ならそう思う。

能力をはるかに越えた会社経営者を継がせられるよりも不労所得が年間何百万円か入ってくる方がよほどハッピーに感じる。それで自適しながガンダムのプラモデルでも作っていれば極楽ではないかと思う。

 

もっとも息子に能力があれば継がせたがる気持ちはわかるのだが。

 

当方は声高に「息子への愛情がー」とか叫ぶ趣味もないし、叫ぶほどの愛情もない。しかし、愛情にあふれるのなら、能力のない息子に事業承継するのが本当に幸せなのかということを一度冷静に考えるべきではないかと思う。

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南 充浩
About 南 充浩 163 Articles
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】