アパレル企業の決算書をよく読むのですが、最近出てくる頻出ワードが「EC強化」という文言。多店舗展開しているブランドであれば、ブランド認知が一定数あり、顧客もたくさんいる事でしょう。そういった方々にオンラインショップを認知してもらうだけで売上が伸びる可能性は高いですし、機会損失を防ぐ事ができます。
また新規ブランドでも、今の時代の顧客の購買行動を考えると、すぐに売れなかったとしても未来への投資という位置付けでオンラインショップを運営しているケースもあるかとは思います。
つまり、どちらにせよ必要なんだとは思うのですが、特性を理解した上で運営しないと痛い目をみます。
◯ECは消化率が低い
これ、意外と知らない人が結構いらっしゃるんですがECって基本的に消化率が低いです。店頭と違って、ブランドネームやサイズ感も含めた認知が強くないと売れにくいんだから当然と言えば当然です。そして、消化率が低い=在庫がたまりやすいのだから、その在庫の対策が必要になります。大手であればアウトレット店を既に複数持っていたりしますから、そこに放り込んでしまえばいいでしょうし、昨今のECモールがやっているプロパー時期ど真ん中の急なセールにキャリー品を出品したら在庫は減らせるかもしれません。結構な大手や認知度の高いブランドであれば、こういった施策は簡単に実行できるでしょうけど、始まったばかりのブランドではここまでチャネルがしっかりしている訳ではないので、余った在庫をどうするかはあらかじめ考えておいた方がいいでしょう。
◯百貨店中心の出店だとECに送客しにくい
百貨店とブランドの契約の多くは「消化仕入れ」と言われるもの。つまり、売れた分だけ仕入れを起こして、掛け率で報酬が支払われるという形ですね。1000万円売ったブランドで、掛け率が75%の場合、ブランドから百貨店側へ支払われる金額は250万円になります。こういった形式なので、昨今バズワードになっている「オムニチャネル」を推進して、店頭のお客さんをオンラインショップに誘導してしまうと百貨店側からNGが出たりします。百貨店側からしたら、店頭で売れる可能性がある商品はできる限り店頭で売ってほしいに決まっています。
こういった事情もあり、百貨店メインに出店しているブランドは、ECに積極的に送客する事ができないので、EC化率を伸ばしていく事が困難だったりします。なので、百貨店アパレルと言われるアパレル企業の中には、販路の比重をどんどん変えていき、ファッションビルやショッピングセンター、そしてECへとシフトしていってたりします。
業界としてとにかく「EC強化」が叫ばれていて、他社の成功事例を聞いているとどうしてもそちらに向かおうという方向性になってしまうのはわからなくも無いのですが、そもそも「自社の目的は何なのか?」に立ち返るべきかと。ロンハーマンのように頑なにECに手を出さないショップもありますし、目的に応じてチャネル強化も考えるべきではないかと常々思っております。