某縫製工場の人が、よく「日本は洋服の販売価格が安すぎる」と愚痴を書いています。
洋服の販売価格が安すぎるから工賃が安いということをこぼしておられるのですが、洋服の価格が安いのは日本に限ったことではありません。
また、業界のイシキタカイ系の人々が「ファストファッションが洋服の廃棄問題が起きた」と主張しているように感じますが、これも誤りで、ファストファッションがグローバル化したために廃棄量は増えたかもしれませんが、売れ残りの洋服を捨てるという行為はファストファッションが広がる前から普通に行われていましたし、むしろ、小規模ブランドの方が、ブランドステイタスを維持するために捨てていました。
例えば、イシキタカイ系の小規模デザイナーズブランドで今でも不良在庫を捨ていているブランドはあります。
これらの誤解が起きる理由は、
安い服は昔からあった
ということを無視、あるいは忘れていることにあります。
グローバルファストファッションが本格上陸し始めたのは2008年~2009年頃にかけてです。ZARAはあまり知られていませんが、それよりももっと前の98年に日本に上陸していました。
98年当時のZARAはビギとの合弁会社として上陸しました。
当時のZARAは今ほどのトレンド品ではなく、いわゆるチープなイタリアンモード&カジュアルな感じでした。
今は亡き、心斎橋ビブレの末期に3フロアくらい出店していて、期末になるといつもワイシャツが900円に値下がりしたのを覚えています。
ZARAの話はこれくらいで置いておいて、当方が中学生~高校生のころというと今から35年ほど前のことになります。
その当時、すでに「安い服」は世の中に存在していました。
そうです。ジャスコ(今のイオン)やイズミヤ、ダイエー、マイカル(当時ニチイ)、イトーヨーカドーなどの大型スーパーマーケットが販売していました。
1900円のトレーナーや1900円の綿パンなどが大量に売られており、当方は母親が買ってきたそういう服を大学卒業まで着ていました。
大型スーパーマーケットで一大ブームを起こしたのは70年代のダイエーでした。
倒産してイオンに吸収されてしまいましたが、ダイエーは日本の大型スーパーマーケットの先駆けでした。当時は業界のリーディングカンパニーだったのです。
当然、低価格衣料品も多く扱っており、ジュンやVAN、レナウンなどの既製服がまだ高額だった時代に庶民でも買える低価格衣料品を発売し、支持を集めました。
ですから、40年以上前から日本には低価格衣料品が存在したのです。
では、近年と異なる点はどこかということになると、ユニクロが2004年以降にブラッシュアップされるまでは、低価格衣料品とブランド物衣料品は、明らかに見た目が異なっていたのです。
色・柄・形・シルエット・生地の風合い、そのすべてが異なっていました。
ですから、かっこいい服を買うとなると、ブランド店で買うほかなかったのです。ところが2004年以降にユニクロがブラッシュアップされ、グローバルファストファッションが上陸すると、様相は異なり始めました。
もちろん、厳密に見れば違いはありますが、ブランド物と低価格衣料品の見た目がほとんど変わらなくなって行ったのです。
それには様々な理由があります。
1、低価格衣料品にブランド物の企画製造ノウハウが流出した
2、OEM・ODMに頼りすぎて同質化してしまった
3、ブランド物のアパレルの企画製造能力が低下した
などなどです。
その結果、国内アパレルブランドは不振となり、成長したのは低価格アパレルばかりということになったので、ことさら「安い服が突然現れた」という風に見えてしまうのです。
とくに2000年代後半まではいわゆるファッショニスタといわれる人々が低価格ブランドに言及することはありませんでしたが、その垣根がなくなってしまったので、そういう見え方に拍車がかかったといえます。
結局は何が言いたいのかというと、安い服は40年以上前からあったということ、それから、グローバルファストファッションはヨーロッパ・アメリカ発祥なので、そういう強烈なニーズは欧米にこそあったということ、この2点を理解しないと、延々と的外れな議論が繰り返されるだけになります。
安い服は最近出現したわけではない
安い服のニーズは欧米にこそあった
この2点です。
ここを理解しないと、日本悲観論かファストファッション排除論にしかなりません。くれぐれもお間違えなきように。