このトップセラーの読者の中には、将来的に自分でブランドを立ち上げたいと思っている人も多いのではないかと思います。
OEM・ODM業者が多数存在しているため、カネさえ払えばオリジナル商品を作ることは容易になりました。売れるかどうかは別にして。
またアパレルブランドを開始するには資格も免許も要りません。ヘアサロンが増えすぎて飽和状態だと言われていますが、それでも美容師になるためには国家免許が必要なので、そこら辺のオッサンが思い付きで「明日から俺、美容師になるわ」というわけにはいきません。それなりの参入障壁はあるのです。
アパレルブランドは何も要りません。フリーパスです。そこら辺のオッサンが思い付きでブランドを開始することはできます。
しかし、参入障壁が限りなく低いのは事実ですが、ブランドを開始したときにもっとも困るのは「与信」で、これが理由で様々な業者が口座を開いてくれないということは珍しくありません。
与信という参入障壁はけっこう高いのです。
以前、付き合いのあった個人経営のOEM業者がいましたが、ある生地を入手したくていろいろと当たってみた結果、某大手生地問屋に行き当たりました。
このOEM業者はその時点で起業して10年前後が経過していましたから、ベンチャーというわけではありません。
それでもこの業者に大手生地問屋の口座は開設できなかったのです。それほどに「与信」という参入障壁は高いといえます。
https://www.ulcloworks.net/posts/6575384
そして過去にたくさん痛い目を見たから、少なくとも3年以下の会社に100万以上の枠をおろすことはまずない。
というのが実情です。要するに、思い付きでブランドは作れるが、支払い能力も未知数だし何よりも長年に渡って経営が可能なのかどうかもわからない。ブランドが倒産すれば、納入業者は焦げ付く。
だから必然的に与信には慎重に対応するということです。
今回、先に紹介したアルクロワークスさんのブログを読んで、クレジットカードでの決済は妙手で、逆にどうして今までそれを業界はしなかったのかと思いました。
ところが今日、ちょっと銀行に用があって行ったら「製造業者もクレジットカード決済って良くないですか?」と提案を銀行の担当の方からもらった。手数料も安く、翌日には入金されるスピードはキャッシュフローがいつも苦しい製造業にとってはいい話だ。
小口のお客さんは一回の取引で数百万なんてことはあまりない。生地なら大体が数万〜数十万で、個人のクレジットカード枠でも賄える範囲だったりする。これは双方にとってとてもいい仕組みではないか。
こういうのを「コロンブスの卵」というのでしょう。既存の仕組みを新しい方法で活用することこそ、イノベーションといえるのではないかと思います。実現可能かどうかも疑わしい企画を称賛することがイノベーションではありません。
どうして業界は今までこれを活用しなかったのか。1メートル700円の生地があるとして、これで普通の長ズボンを作れば用尺2メートルとすると1400円になります。
200メートル買ったとしても14万円にしかなりません。
大手ブランドなら何千枚・何万枚の生産なので金額は跳ね上がりますが、小規模ブランドや零細ブランドなら、200メートルの生地を買って100枚のズボンを縫うのがせいぜいです。下手をすると50枚しか生産できないかもしれません。50枚分だと生地代金は7万円にしかなりません。
7万円とか14万円くらいなら個人のクレジットカードで十分に買える金額です。
今後は小口のお客とはクレジットカード決済で対応する製造業者が増えるという気がしますが、とりあえず、ブランドを始めたいという人は与信という強固な参入障壁があることだけは頭の片隅にでも置いておくと、いざというときに面食らわなくて済むでしょう。