以前、ファッション業界のキャズムについて上記のような事を書いたのですが、「売る」と「作る」でのキャズムは当然あるとして、実は「売る」の中だけでも結構なキャズムが存在するのです。
僕の過去の同僚は今でもコレクションブランドで働く人が多いけど、SPAやテック関連にはまるで無知だ。彼らの「めっちゃ売れてる」は認知や流通量で言うと大した事が無かったりする。業界を俯瞰して見れない事の弊害は結構あると思ってる。
— 深地雅也 (@fukaji38) July 11, 2019
僕が新卒で入社した会社は、いわゆる「コレクションブランド」を中心に取り扱ってたのですが、そうなると主な商圏は百貨店になります。百貨店の中でも特にラグジュアリーばかりが集積されている売り場を日々回りますので、インプットも自ずとそういう高級ブランド中心です。シーズンの変動も、主に年二回(春夏・秋冬)なので、トレンドのキャッチもMD設計も常にそのサイクル。競合他社の方々との交流もよくあったのですが、よく話にあがるのはどのブランドのデザイナーが誰になっただとか、高感度セレクトショップではどのハイブランドが売れてるだとか、そんなお話ばかり。
こうなってくると同じ「ファッション」というカテゴリーの中でも、SPAや量販店などの情報は全くの圏外になります。僕自身、このラグジュアリーの業界から出て、フリーランスになったばかりの時は「オールドネイビー」すら知らなかったくらい、ある意味浮世離れしていました。(2012年くらいの頃になります。)
キャズムがもたらす弊害
この認識のままだと、自分たちの「売れている」と思っている商品やブランドにも当然大きな乖離が出てきます。某有名ラグジュアリーストリートブランドを取り扱う先輩は、いかに自分が取り扱っているブランドの勢いがすごいかを説明してくれます。しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いの某ブランドの売上は、チェーン展開している有名セレクトショップの1店舗あたりの売上と大差が無かったりします。流通量も認知度も、もっと優れたブランドは市場に山ほどあるのです。こういった事例は枚挙に暇がなく、同じファッション業界の、小売というジャンルだけ取っても、自分たちの商圏やカテゴリーを外れると一気に無知になります。しかし、同じようなジャンルのブランドだけをベンチマークしていればそれで事足るかと言われると、そんな事はありません。
「○○コレクションに出品されていた。」「スタイリストの○○が着ていた。」「おしゃれな人はみんな○○を着ている。」
エンドユーザーがこういった情報に触れ、ブランド価値を感じるのは何も問題はありません。しかし、業界の中にいる人間がこういった事に無知なのは、マーケティング力が低いと言わざるを得ません。自分たちの市場を脅かしているのは誰なのか?10年前にH&Mが上陸した時も、高感度セレクトやSPAは影響は無いとメディアで言い切っていました。しかし、10年が経った今、低価格商材の販売量は如実に増え、二極化の一途を辿っています。違う商圏の事だと言って興味を持たないままだと、いつの間にか自分たちの市場が喰われているかもしれませんよ。