アパレル業界に深く根差している割には、大半以上の人がその役割を理解していない存在に「商社」があります。
恐らく、販売員のみなさんは商社のことなんて意識したことがないのではないかと思います。
商社というのは基本的には、いろいろな物の輸出入を受け持つ企業だといえますが、その機能は多岐に渡っています。
商社での勤務経験がない人がそれを理解するのは非常に難しく、当方だってほとんど理解できていません。
販売員のみなさんからすると、商社というと「伊藤忠商事がいろいろなブランドを持っているよな」というくらいではないでしょうか。
コンバースしかり、ハンティングワールドしかり、ポールスミスしかりです。有名なブランドのほとんどを伊藤忠商事が管理しています。
しかし、これらは余技にすぎず、本来の商社の役割というのは、原材料の輸入や製品製造の組み立て(OEM・ODM)、ファイナンス機能、製品の輸出などとさまざまです。
商社についてもっとも的確に論評できるコンサルタントは、個人的には河合拓さんだけではないかと思います。
なにせ、商社勤務経験があるのですから。
現在、商社三部作の二部まで掲載中ですから、興味のある人はご一読ください。
商社の仕事内容の一端がわかると思います。
商社というと、大手の総合商社になると、何でも手掛けます。有名な言葉として「鉛筆からミサイルまで」というのがありました。
また、連続テレビドラマにもなった山崎豊子の小説「不毛地帯」は大手総合商社を描いたフィクションです。
モデルとなったのは伊藤忠商事で、主人公のモデルは伊藤忠商事を牛耳った瀬島龍三氏だといわれています。またライバル商社のモデルは日商岩井(現在はニチメンと合併して双日)で、ライバル鮫島のモデルは、日商岩井の海部八郎氏だといわれています。
あのドラマを見れば、石油を手掛けたり、繊維を手掛けたり、自動車を手掛けたりと、総合商社の手広さが理解できるのではないかと思います。
現在のアパレル業界では商社は中抜きだけしていると思われていますが、実際は
商社の重要な機能の一つに、複数の中小アパレルの小ロットオーダーをまとめ、工場稼働率を高めることでトータル生産コストを下げるという機能もある。
輸入時にローンを使って資金回収を遅らせ、在庫の滞留期間を流動化をさせるファイナンス機能も持っている。
という機能があります。
商社のファイナンス機能というのは実に幅広いものがあり、実は国内の生地メーカーが、国内のアパレルに生地を販売する際にも実は商社を通して販売されているというのが実態です。
例えば、生地メーカーとアパレルが直接つながりやすい事例としては、ジーンズ業界があります。
例えば、カイハラやクロキといった大手生地メーカーとエドウインやビッグジョンなどのジーンズメーカーの関係は密接で、首脳陣から現場まで顔見知りで付き合いがありますが、生地を買う際には商社を経由させています。
ご存知でしたか?
一見すると無駄に思えます。商社を介入させるだけで少なくとも数%の手数料が取られるのですから。しかし、これは商社のファイナンス機能を重視してのことになります。
商社不要論が飛び出すことがありますが、それは商社の使い方が下手くそな人か、商社の機能を当方よりも理解していない人かのどちらかでしかありません。
そんなわけで、ともすると販売員のみなさんからは遠い存在の商社ですが、商社なくしては、実は生地の売り買いから製品製造までままならないというのが実態なのです。
頭の片隅にでも置いてもらえると、また違ったものが見えてくるかもしれませんね。