EC担当者はもう不要?スタッフスタートが可視化する、アパレル最大の資産が販売員である理由

アパレルの現場、特に販売員に常につきまとう給与水準の問題。

アパレル産業は消費財で利益率も低く、過去から給与水準の低さが人材レベルの低迷を招いている。

こういった事態を見かねてか、業界では販売員協会の設立など「販売員の地位向上」を目指した活動も見られるが、抜本的な改革に至っていないのが現状だ。

一方で企業内の制度を利用して高額な所得を実現している販売員も一部では存在する。

しかしこれらの制度は、店頭売上に対するインセンティブでの付与であり、配属先店舗によって不公平が生じる事もしばしば見受けられる。

このような課題を業界が抱える中、あるWebサービスが現場でも支持を集め出している。

 

 

株式会社バニッシュ・スタンダードが運営する「スタッフスタート」は、販売員が携帯アプリから簡単にコーディネートを投稿でき、尚且つそれが自社のECサイトに反映される仕組みを構築している。販売員のコーディネート提案は今やECサイトでもキラーコンテンツであり、スタッフコーデ経由のEC売上が6割程度というブランドも出てきている。「販売員」という企業の資産を上手く活用し、またその効果を可視化できるサービスと言えるだろう。

今回、このサービスが今後どのような未来を切り開いていくのか、株式会社バニッシュ・スタンダードの小野里社長に直接お話を伺った。

 


 

販売の為のソフトとして、現場からの満足度は高い

四元「今、弊社のクライアントの中でスタッフスタートを導入しているブランドがあるんです。業務的には依頼が無かったんですが、目の前でやっているのを見てどうお客さんに伝えればいいかアドバイスしていたんですよ。そこでアドバイスした内容がそのままお客さんにウケて、しかもオンラインでボトムスが売れたんですよ。そこで、これ面白いなって感じて、是非小野里さんとお話したいと思ったんですよ。新しい店頭のツールだし、もっと世の中に浸透してくれたら、これを利用して活躍する販売員の数が増えそうだなと。」

 

小野里「ありがとうございます。」

 

四元「店頭にいた時にあったら良かったって思いましたよ(笑)店頭とECとのいがみ合いって今でもあるじゃないですが。でもスタッフスタートがあるとEC上でも自分の評価に繋げる事が出来るから是非活用してほしいなって。トプセラの活動をしている中で、僕が運営するLINEグループがあるんですよ。100人くらいの。そこで情報交換などしているんですけど、その中でスタッフスタートのアンケート取ってみたんですよ。そういった事もご共有できたらと思っています。このグループ、新人からベテラン、ブランドは低価格帯からラグジュアリー配属の販売員まで幅広く揃っていますよ。」

 

小野里「それめちゃくちゃ聞きたいですね!」

 

四元「いくつか質問を投げてみたんですが、それが

 

1 スタッフスタートの使い勝手は?

2 撮影などの時間はどうやって確保していますか?

3 良いと感じる点

4 不満と感じる点

5 増やして欲しい機能ありすか?

6 実際、自分の評価に繋がっている?

 

こちらの6項目ですね。それでは順を追ってご紹介していきます。」

 

四元「まず使い勝手に関してですが、アンケートをとった販売員のほぼ100%が”使いやすい”との回答でした。販売員さんってWebリテラシー低い方が多いのですが、それでもこの回答だったのは驚きですね。アプリから商品バーコードで読み取れるのが一番支持されていて、直感で操作できるから高い年齢層でも使える点に今後の広がりを感じさせます。」

 

小野里「バーコードも人気なんですけど、EC画面から商品探して、簡単にコーディネートに紐付けられるんですよ。外でも簡単に紐付けができるのが使い勝手が良くて好評なんですよね。」

 

四元「そういった細部への気配りが販売員の支持に繋がっているんでしょうね。次に、撮影の時間の確保ですが、多くの店は閑散時間の隙に撮影していますね。本気度が高い店舗はシフトを組む際に、撮影スケジュールも組み込むほど徹底しています。このような店舗の方が成果あげていますね。また三脚を使用している店舗もあって、スタッフ出勤数の少ないハンデをクリアしている意欲的な店舗もありました」。

 

小野里「個人的には三脚は推奨したくなくて、誰かに撮ってほしいなって思っているんですよ。その方が良い写真が撮れるんで。でも以前にも要望あったんで、スタッフスタート三脚作ろうかな?と構想した事はありますね。あと壁紙ほしいとかも言われます(笑)しかし、流石現場の方の声ですね。本当にコアなお話多いです。」

 

四元「店舗の人員の事情によっては致し方無い面もあるんでしょうね。良いと感じる点は、使い勝手の良さと通ずるのですが、撮影から投稿までが簡単なところが一番評価されています。副次的に、常にコーディネートを考える癖や、試着の回数が増える事で自然とコーデ提案力や商品知識も身につくので販売員のスキルアップにも繋がるようです。また”数字”が見えやすく、結果がわかりやすいのでモチベーションを維持しやすいところもポイント。他店の人の顔がそこで初めて知れるというのもメリットだと感じるようです。」

 

小野里「実はそれで自社内の競争意識を芽生えさせたいんですよ。数字見ながらマーケティングして、他店のスタッフの状況見ながら競争意識が生まれモチベーションに繋げる事がより高い成果に繋がると思っていますから。」

 

課題は「本部の対応」にある

四元「逆に不満と感じる点ですが、スタッフスタート自体への不満は少なくて、運営への不満が大半でした。例えば店舗によって商品ラインアップが違うから提案に差が出る、や、店舗商品とEC商品との不一致といったところですね。今後、スタッフが本気度を上げようと思うと、本部スタッフの育成や販売員との架け橋的なサポートが必要でしょうね。」

 

小野里「導入企業は販売力を高める為に、やれる事はたくさんあるでしょうね。例えば、動画マニュアルを作成したり、どういった画像がユーザーに受けるか教えてくれる先生を用意するとか、それを各店の人気スタッフが教えていくとか、そういった事はどんどんと取り組んでいきたいと思っています。」

 

四元「アパレルの本部って本当にリテラシーが低い方が多いですからね…。ここは大変だと思います。次に増やして欲しい機能ですが、ECサイト内で販売員をフォローできる機能と、データ分析機能という声が多かったです。特にアプリ内で顧客管理が可能になれば、今後リアルとの融合はより進むのではないかと。」

 

小野里「スタッフをフォローする機能はつける予定は無くて、我々は個人のInstagram運用を推奨して、Instagramとスタッフスタートを連携してもらっているんですよ。何故なら、ECサイトのフォロー機能はあまり使われていないと考えているからです。クーポン撒いたら押してくれますけどね(笑)それならInstagramのフォロワーを増やす方が個人にとってもメリットがあります。スタッフスタートはInstagramと同時投稿も可能ですから投稿の手間も省けますし、どれだけ流入があってどれだけ売れたかも見られるようになっています。データ分析を積極的にするスタッフも増えていますね。顧客管理もシフトも全て一元化できれば楽ですからね。ここはカルテさんとの協業で顧客管理のところまでカバーはしていけると思います。そこまでの準備はもう整っているんですよ。」

 

四元「InstagramをフォローしてもらえればECサイトの入り口にもなりますね。確かにその方が企業も販売員も双方メリットがあります。最後に、自分の評価に繋がっているのか?という点について。一部の企業では、売上やフォロワー数を評価し、インセンティブを与えたりする取り組みが出てきていますが、全体的にはまだ実際の評価に繋がっていないケースも多く見られました。総括すると、スタッフスタート自体は、販売員から好意的に受け入れられていますが、本部側の整備が課題と感じています。まだ多くの企業が、販売員の”やる気”だけに頼っている状況です。」

 

 

インセンティブはMAX7%・1000万円プレイヤーも夢ではない

小野里「これについてはいくつか解決策があります。まず一つ目ですが、企業側が提示している最大のインセンティブは7%なんですよ。これが何となく秘め事みたいになっちゃってて。採用面にも関わってくるから慎重なんでしょうね。皆がこういった数字を公開し出したらもっと評価制度は変わると思います。僕個人の思いとしては、現状では、賃金以外にアパレルに人を呼び込む術が思いつかなかったんです。年収1000万円の販売員がたくさん生まれたら、みんなが憧れてくれて現場が勇気付けられるし、ほかの産業からもアパレルを目指してくる人が増えるでしょう。少子化も防げるんではないかと。インセンティブで海外研修に連れて行くことも出来るようになります。」

 

四元「僕もこれ言おうと思ってたんでよ。スタッフのインセンティブで7~8%くらいは適切だから、それくらい渡す事はできないか?とグループ内でも言っていて。」

 

小野里「そうなんです。外のアフィリエイターやインフルエンサーに支払う10%~15%は気にしていない。それなら販売員さんに支払った方がいいんじゃないかって。」

 

四元「中にいたからわかるんですけど、販売員にその7%が落ちるとなると、中の抵抗勢力は出てくるでしょうね。今まで本部に上がる事がキャリアアップという見方をされていましたから。」

 

小野里「その見え方も徐々に変わっていっていますよ。スタッフスタート内でも本部の方がコーデアップをしているんですが、それがもう答えです。現場に注目が集まってきたので、本部スタッフも始め出しているんですよ。これで現場と本部が平等になりましたよね。また、本部よりも店舗の業務や売上予算を抱える店長がスタッフの投稿に消極的になるという問題になってたりしますね。なので、スタッフスタート売上を店舗売上でも評価できるようにしました。店頭予算が90%達成だったとしもEC売上含めると110%、というケースも生まれるんですよ。そうする事で店長はスタッフに投稿をどんどん勧める。また、店頭売上からは閉店せざるをえない店舗でも、EC売上を含めると残しておきたい店舗として数値面で説明ができます。これで雇用も守られます。ECが店頭と並ぶものではなくて、店舗の売上をあげる為、店舗を継続させる為の仕組みをこのスタッフスタートの評価をオムニチャネル化するっていう考え方を作っていかないといけない。それがスタッフスタートの根幹なんですよ。」

 

四元「アパレルは社内公募制という制度を作って、現場で実績を上げた人間が本部に昇格するよう促進していますが、これが広まれば現場にいたいと思ってくれるスタッフも増えるでしょうね。慢性的な人手不足解消の手助けになる可能性が高い。」

 

スタッフスタートが起こす「現場の自浄作用」

小野里「インセンティブに関してはもう1つ案があります。近々、ECプラットフォーマーとの連携が始まる予定です。スタッフスタート経由の自社EC売上以外に、ヘルプ売上というものが出てきて、”ECプラットフォームでどれくらい売ってます。”という数字が明らかになります。その売上を元に、弊社に入る送客手数料をアパレル会社さんを通じて販売員さんに還元する、という構想です。アパレル会社さんにも、販売員さんに売上実績を開示し、インセンティブを渡してもらうように呼び掛けていくつもりです。」

 

四元「考え方が非常にフェアですよね。過去から本部って、販売員に対して情報を秘匿する癖があって、なるべく見せないようにしてきた経緯があるんですけど、そこが全部透明になっていますよね。それは販売員に支持される内容ですよ。メディアのコメントで以前”アイデアだけは山ほどある”と小野里さんが答えておられたのを見て、どんな事を考えているんだろう?って思っていましたが、ここまで考えられていたんですね。僕は以前からずっと、店頭の人間って実は一番のマーケターなのだと思っていて。それが今まではずっとブラックボックス化していたんですよ。でもスタッフスタートがそれを可視化し、定量化する事で、活かせる方法が多様になっていますね。」

 

小野里「でもまだまだ、こういった本質的なお話って現場の方々にはしっかり届いてなくて。だから店長会に出て、こういったお話を積極的にしようとはしています。これからもこういった事を伝えていきたいと思っています。」

 

四元「ファッション教育の現場でもどんどん教えていくべきですね。学生のうちから販売員にチャンスが多い事を教えてあげるだけで、若手の取り組み方は大きく違ってきますから。」

 

小野里「販売員になりたいっていうトレンドに、もう一度戻したいですね。」

 

四元「接客が弱くなった空白の10年があるんですよね。ファストファッションの台頭によるセルフ販売接客が蔓延したせいもあって。」

 

小野里「そうですよね、15年、20年前のアパレル販売員の世界に戻したいと思っています。アパレルは販売員がキーですよ。」

 

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深地雅也
About 深地雅也 155 Articles
株式会社StylePicks CEO。コンテンツマーケティングをメインに、ECサイト構築・運用・コンサルティング、ブランディング戦略立案、オウンドメディア構築、販促企画などをやってます。最近はODM・OEMメーカーのブランド設立支援、IT企業のアドバイザー、服飾専門学校講師、ライター業なども手がけてます。