diaryを始めよう

AFFECTUSの新井茂晃です。

今回は通常のデムナ・ヴァザリアのデザイン変遷を追う連載ではなく、閑話休題的に異なるテーマで 書いてみたいと思います。たまに違うことが書いてみたくなるので、今回がそういうタイミングだったのだと思ってもらえたらと思います。

最近、日本の若手ブランドについて調べていました。魅力的な日本の新しい才能を知りたいと思って。その過程で思ったことがありました。それはデザインのことではなく、ブランドの発信方法についてです。

ビジュアルとコンセプトだけで伝える難しさ

「WWD」「FASHIONSNAP.COM」「FASHION PRESS」などファッションメディアで発表されるコレクションをチェックしていたら、モードな新ブランドを知ることがあります。「あれ?けっこういい、この服」といった具合に。そこで興味を持って、今度はブランド名で検索をかけます。すると、ブランドサイトがあることを知り、見てみようと思います。

ブランドサイトではシーズン毎に制作したコレクションのビジュアルと、ブランドのコンセプトを記した文章が短文でアップされています。とてもシンプルな構成のブランドサイト。日本の若手ブランドのブランドサイトは、このような構成が多いと感じました。

そこで正直に思ったのは「物足りなさ」でした。ブランドへの興味を持ってサイトを見ると、先ほどメディアで見たビジュアルがアップされていて、過去にどんなデザインをしていたのかアーカイブがあれば見ます。次に生まれる感情は、このブランドは一体どんなブランドなのかという興味。そこでコンセプトを読んでみると2〜3行で書かれた文章のみ。この瞬間、「もっとブランドのことを知りたい」と思ったニーズが断ち切られる感覚が生まれました。

コレクションをどのような意図で制作したのか、何がきっかけとなってデザインのインスピレーションとなったのか、このブランドはどんな想いから作られたのか、そういったブランドの背景を伝えるには、ビジュアルとコンセプトの発信のみでは、スマホで情報を知ることが当たり前の現代にマッチしていないように感じたのです。

情報は商品の一部となった現代

今、僕らはInstagramやTwitterなどSNSで「新しい何か」を知ることが多いです。そこでその新しい何かに興味を持ったら、購入する前により詳しい情報を知ろうとしてスマホ片手に調べるのが現代の消費者の一般的行動です。そういった時代に、ビジュアルと短文のコンセプトだけを発信することが現代の消費者行動とマッチしているのだろうかと思うと、僕はズレを感じます。

ファッションは視覚で訴えられる面白さが最大の魅力です。スマホ登場以前なら、その特徴を最大限に発揮するブランド発信方法を行えばよかったのだと思います。しかし、時代は変わってしまいました。変わってしまった時代に、旧来の方法ではブランドを知りたいと思った消費者が、さらに興味を持ってブランドのファンになることが難しくないでしょうか。これからのブランドは、言語によって自分たちのことをより詳しく知ってもらうことが必要に思えます。デビューしたばかり若手ブランドであればなおさら。

diaryを始めよう

では何から始めたらいいのか。若手ブランドはdiaryを始めたらいいのではないでしょうか。いわゆるblogです。古典的な方法ですが、コレクションを制作する過程で感じたこと、考えたこと、もし可能であれば制作過程で見た風景(アトリエであったり、工場であったり、インスピレーションとなった風景や人物など)を写した写真を交えながら日記として、カジュアルに綴ってアップしていく。ブランドサイトではなくInstagramを使って行うのもアリです。

人が人に惹かれる時、その最初のきっかけは外見であることが多いと思います。そこからその人の考えていること、どんなことに興味を持っているのか、何に楽しさを感じるのか、その人を知ることで、さらに惹かれていく経験をした人は多いのではないでしょうか。服を着ることは人間の装いを作ることで、それは人間そのものを作り出すといっても過言でありません。そんな服を作り出すのがブランドです。そう思うと僕はブランド=人だと感じています。人だからこそ、内面を発信していく。今の情報社会ならいっそう。

日本の若手ブランドは、デザイナーが自身の世界を深く潜り込むように探求し、繊細に表現されたデザインが多いと感じました。それはまるで小説の私小説のような閉じられた世界です。けれど、その繊細で閉じられた世界だからこそのエレガンスがあるように思いました。きっとその世界を好きになる人がいるはずです。言葉を伝えないことで、その世界を好きになる人に届かないのはとてももったいないです(ビジネス的表現では商機を逸します)。

そして卸展開をするブランドなら、ショップを偶然訪れて服を手に取った人にショップスタッフからブランドの背景が届けば、ブランドへの興味が生まれるきっかけにもなります。

今、ファッションデザインは拡張しています。新型コロナウィルスの影響により、世界のファッションウィークはオンライン化に移行し、新コレクションの発表方法がショーだけではなくなる時代が本格的に訪れます。新しい時代の新しい思考と新しい行動を。僕自身、こう思います。

それではまた来月。次回はデムナ・ヴァザリア連載の再開です。

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新井茂晃
About 新井茂晃 16 Articles
1978 年神奈川県生まれ。 2016 年「ファッションを読む」をコンセプ トにファッションデザインの言語化を試みるプロジェクト「AFFECTUS(アフェクトゥス)」をスタート。 Instagramとnoteで発表しているテキストを一冊にしたAFFECTUS BOOKは、AFFECTUS ONLINE SHOP・代官山蔦屋書店・下北沢本屋B&B・鹿児島OWLで販売中。2019年からはカルチャーマガジン『STUDIO VOICE』、ニュースサイト『文春オンライン』への寄稿、代官山蔦屋書店でのトークイベント『AFFECTUS TALK』を開催するなど新しい活動をスタートさせている。ファッション批評誌『vanitas(ヴァニタス)』No.006にロングインタビュー掲載