フミト・ガンリュウが変わる

AFFECTUSの新井茂晃です。

連載してきましたデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)のデザイン変遷は前回で最終回となり、今回からは特別なテーマは設けずに、その時々で気になったニュースやブランドのコレクションを取り上げて書いていきたいと思います。

新たにスタート第1回目は6月に発表された「フミト・ガンリュウ(Fumito Ganryu)」2021SSコレクションを紹介します。

テーラードからカジュアルウェアへのシフト

「コム・デ・ギャルソン(Comme des Garçons)」出身のデザイナー丸龍文人は、独立して新たに立ち上げたブランドであるフミト・ガンリュウでストリートのエッセンスを感じさせながらも、2019AWシーズンからはテーラードジャケットをガンリュウならではの解釈でデザインしたクラシックなファッションを発表しました。それがコム・デ・ギャルソン時代に彼が見せていたデザインとは異なるステージに上ったように感じられ、僕はフミト・ガンリュウの新スタイルが好きでした。

しかし、最新コレクションの2021SSでフミト・ガンリュウは生まれたばかりの新スタイルを変えます。テーラードジャケットが主役のクラシックから、トラックスーツやスウェットが主役のカジュアルへ。二本線のラインが入ったトラックスーツは昔の体育教師を思わすジャージです。ゆったりとしたシルエットにフミト・ガンリュウならではのモードな匂いは感じますが、コレクションを構成するアイテムはスタンダードなデザインのシャツやジャケット、トレンチコートというファッション王道のアイテムにシルエットの分量感で印象を変えたデザインがほとんどです。

2021SSコレクションには、見る様すぐにインパクトを覚える強烈なデザインは存在しません。まるでルームウェアのようなリラックス感がコレクション全体を覆っています。

時代がスタイルの変化を促す

180度と称していいほどイメージが変わったのには、新型コロナウイルスによる影響があったと思われます。外出が制限され、人と出会うことが極端に減少し、室内で過ごす時間が増える生活。このような時代に、テーラードジャケットを主役にした重厚なイメージのクラシックはマッチしなくなってきました。

ファッション界のトレンドはストリートに代わり、クラシックが前線と現れ始めていました。しかしながら、厳かな美しさを持つクラシックは新型コロナウイルスの出現によって生活様式が変わってしまった人々の気分とはミスマッチでしょう。僕自身、以前ならポジティブに感じられていたクラシックのエレガンスが今は重々しく感じられてしまいます。

ファッションは時代の変化に敏感です。服を着ることは時代を着ること。時代の変化を察知して、これからの時代にふさわしいファッションを人々に提案する。それがファッションデザイナーに課せられた使命の一つです。2021SSコレクションで丸龍文人が見せた変化は、ファッションデザイナーならではのアクションと言えるでしょう。

制限が創造性を刺激する

2021SSシーズンのフミト・ガンリュウは先ほど述べたとおり一見するとルームウェアに見えます。しかし、これまでのルームウェアには見られなかったシルエットがボリュームのコントロールでデザインされており、見たことのある服なのにこれまで見てきた服とは異なる新鮮なニュアンスが感じられてきます。

アヴァンギャルドの中のアヴァンギャルド、コム・デ・ギャルソンで経験を積み重ね、モードの王道で実力を磨いてきたデザイナーがデザインする、ルームウェアの側面を持つシンプルなカジュアルウェア。この言葉の響きだけで、僕はとても興味がわいてきます。

創造性が自由に発揮されることはいいことです。しかし、時には制限をかけられた中で発揮する創造性が面白さを生むことがあります。ルームウェア的シンプルな服を、アヴァンギャルドな領域の中で培ってきた創造性を用いてどのようにデザインするのか。もし、今回の方向性が今後も継続されるのであれば、フミト・ガンリュウは僕にとって毎シーズン見ることが欠かせないブランドになっていきます。

それではまた来月。

〈了〉

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新井茂晃
About 新井茂晃 16 Articles
1978 年神奈川県生まれ。 2016 年「ファッションを読む」をコンセプ トにファッションデザインの言語化を試みるプロジェクト「AFFECTUS(アフェクトゥス)」をスタート。 Instagramとnoteで発表しているテキストを一冊にしたAFFECTUS BOOKは、AFFECTUS ONLINE SHOP・代官山蔦屋書店・下北沢本屋B&B・鹿児島OWLで販売中。2019年からはカルチャーマガジン『STUDIO VOICE』、ニュースサイト『文春オンライン』への寄稿、代官山蔦屋書店でのトークイベント『AFFECTUS TALK』を開催するなど新しい活動をスタートさせている。ファッション批評誌『vanitas(ヴァニタス)』No.006にロングインタビュー掲載