AFFECTUSの新井茂晃です。
2021年春夏コレクションもパリが終了し、今週10/12(月)からは東京で「Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 S/S 」スタートしました。今回のRakuten Fashion Weekでは、開催期間中にファッションウィークについてSNSで発信していく「DEGITAL VOICE」メンバー15名が発表されました。その一人に、AFFECTUSが選ばれています。
「Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 S/S デジタル施策について」
とは言ってもやることは変わらず、コレクションを見たブランドのデザインについてシリアスに言及していきます。このコレクションには現在のファッションにおいてはどのような価値と魅力があるのか、それを言葉にしていつも通りにお伝えしていきます。
そして今回は、ミラノファッションウィーク期間中には発表せず、独自のスケジュールで最新2021年春夏コレクションを発表した「ジル・サンダー(Jil Sander)」についてのコレクションテキストです。このテキストはAFFECTUSのInstagramやnoteはもちろん、サブスクリプションメンバー限定のアーカイブサイト「AFFECTUS」でも発表していない、ここだけのオリジナルテキストになります。
今回のジル・サンダー、さらなる世界観の深まりが感じられました。本文は以下から始まります。文体も変化してお伝えします。
Jil Sander 2021SS Collection
映像によるオンライン発表を選択したジル・サンダー。暗闇の中でほのかに浮かび上がる細い一本の道。ランウェイに見立てられた道を、真っ白なコートドレスを着用した女性モデルが歩いていく。映像に使用されたBGMは、荘厳で静粛なムードを醸し出し、まるで何かしらの宗教儀式のような神聖さが際立つ。
展開されるカラーパレットは、白・黒・オフホワイトといったブランドの象徴と言えるおなじみの色。シックで控えられた色の雰囲気が、今回のコレクションの厳粛さをより一層濃く強くする。身体をゆったりと、しかしスレンダーに美しく装うシルエットはいつもと変わらず。だが、シルエットの洗練度はシーズンを重ねるごとに増していき、深まってきた。
ジル・サンダーはミニマリズムと称さられることが多い。シンプルなデザインで、装飾性を排除した服にはそう形容されることが多いのは確かだが、実のところジル・サンダーの服はイメージはミニマリズムであっても、服のデザインそのものはシンプルではなく、挑戦的で複雑さが滲むものだ。
2021SSコレクションもシルエットはいつもと変わらずシンプルだが、シルエットを構成するパターンには切り替えが組み込まれたり、カッティングに大胆かつ攻めたラインが見られたり、異素材の組み合わせも印象的であった。とりわけ目を惹いたのはブラックが用いられたノーカラーベスト。このベスト、デザインはシンプルだが確かなインパクトを生んでいる。ベストの身頃は左身頃だけであり、右身頃がない。ブラックのシンプルなノースリーブドレスの上に半身だけのベストを着用し、ウエストを細いベルトで絞る。たったこれだけのスタイルに、アヴァンギャルドな精神ともいうべき挑戦心と、その攻撃的な精神性をダイナミックに展開するのではなくシンプルに抑制を持って表現したデザインには、淑女的気品ある美しさが立ち上がっていた。
それはかつてマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)が手掛けていた「エルメス(Hermès)」に通じるエレガンスであり、しかしマルタンのエルメスよりもずっと現代的であり、時代と距離を置くようであったマルタンのエルメスよりも時代と呼応するモダニティが感じられた。
今回のジル・サンダー、たしかに映像からは秘境的神聖なイメージは強いが、発表された服は実に都会的。まるで、インドの秘境へ赴く都会に住む女性が、自身のスタイルを赴く秘境の場に調整したファッションのようでもある。
新型コロナウイルスの影響により、ドレスライクなエレガンスに移行していたトレンドは2021SSコレクションではカジュアルなエレガンスに転換されていたが、ジル・サンダーはエレガンスは引き継ぎながらもカジュアルには触れず、ドレッシーで格式ある美を讃えるデザインを発表した。
苦境から目を背けるのではなく凛としてたたずみ、向かっていく女性。外見の強さよりも、内面に潜む強さが人間のエレガンスを形作り、そのエレガンスは人間を崇高に見せる。そんなファッションを私たちの前にジル・サンダーは披露してくれた。
ルーク・メイヤー(Luke Meier)とルーシー・メイヤー(Lucie Meier)のメイヤー夫婦は、ジル・サンダーと共に未来へ視線を向ける。映像に示された暗闇の中で照らされた一本の道。メイヤー夫婦はどんな未来を見据えているのだろうか。きっと二人の眼には道の先に灯る光が見えている。
〈了〉