AFFECTUSの新井茂晃です。
2021年を迎えて、1月からいよいよ最新デザインを発表するコレクションシーズンが到来しました。シーズンの始まりはメンズコレクションからが慣習となっているモード界。ミラノとパリで2021年秋冬コレクションが発表され、最新ファッションの未来を模索する時期が今という時代なのだと僕は実感しました。
今回はあるブランドを取り上げ、そのデザインについて語っていきたいと思います。今回取り上げるブランドはストリートの先導者の一人と言える「ヘロン・プレストン(Heron Preston)」です。
ストリートウェアの先導者
デザイナーはブランド名と同様にヘロン・プレストンと言います。彼はいったいどのような人物なのか、簡単に略歴を追っていきます。
プレストンは1983年生まれでサンフランシスコ出身になります。ニューヨークが世界に誇る名門パーソンズ美術大学を卒業した後、「ナイキ(Nike)」に入社してデジタルプロデューサーとしてキャリアを積んでいきました。その過程でプレストンは新たな活動も始めます。「アリクス(Alyx)」 のマシュー・ウィリアムズ( Matthew Williams)、「オフ-ホワイト(Off-White)」 の ヴァージル・アブローと共に「ビーン・トリル(BEEN TRILL)」というグループを結成しました。
ビーン・トリルとはDJ・アートディレクション・ストリートウェアなど音楽を中心に多様な活動をするグループで、この活動でプレストンはニューヨークストリートのアイコンとして知られていきます。
親友であるヴァージル・アブローとの出会いはチャットでした。プレストンに自らのブランドを立ち上げるようアドバイスをしたのも、ヴァージル・アブローです。多くのストリートブランドと同様に、プレストンの服作りはTシャツから始まり、それが好評となって、いくつかリリースしていくうちに新作のTシャツについてヴァージルに相談するようになりました。すると、ヴァージルはTシャツだけを作るのはもったいない、フルコレクションを作るべきだとアドバイスするのです。ヴァージルはアドバイスだけでなく、自らのブランド「オフ-ホワイト」をバックアップするイタリアのニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP)とプレストンを繋ぐ橋渡し役にもなります。
そうしてプレストンは、ニューガーズグループの生産・流通のバックアップを受けて、シグネチャーブランド「ヘロン・プレストン」を2017年にデビューさせ、ビーントリルとしての活動による彼の知名度も相乗効果となり、デビューして瞬時に世界のストリートシーンを駆け上がり、一気に人気ブランドへとなっていったのです。
2021AWコレクション
今回の2021AWコレクションはウィメンズとメンズのルック写真が同時発表されましたが、今回はメンズウェアの発表が中心となる時期になるため、プレストンのメンズウェアにフォーカスします。
プレストンの服にはその背景ゆえストリートの匂いが感じられるのですが、同時に、いやそれ以上にワークウェアの匂いを僕は実感します。ファッションデザインでワークウェアを素材にデザイナーの解釈を取り入れてデザインすることは珍しいことではないですが、プレストンの独自性はグラフィックの使用方法にあります。
ストリートウェアというと大胆なグラフィックが連想されます。プレストンもグラフィックを用いたアイテムをいくつも発表しますが、大胆な配置とサイズで服にグラフィックを用いるのではなく、まるで地図の記号のようにグラフィックが服の上に配置されているのです。
2021AWコレクションでもその傾向が見られます。しかしながら、いつもよりグラフィックの使用量が控えめでストリートマインドにワークウェア、そこに今回はアウトドアテイストが強く感じます。
僕は今になってワークウェアへの興味が強くなっています。働くためのユニフォームを、モードのデザイナーたちがどう料理するのか。そこに対する興味が強く、デザイナーそれぞれの表現を見ることが楽しみになっています。プレストンは僕にとってそんなデザイナーたちの一人になります。
地図の要素をストリートウェアに仕立て、ワークウェアとも一体化させたスタイルを見せるヘロン・プレストン。彼のコレクションに、僕は今後も注目していきます。
〈了〉