一生見ることのない世界のためにモノをつくる

আস্সালামু আলাইকুম! (アッサラーム・アライクム!)

バングラデシュより、ハルカです。

生産側に触れる

前回の投稿では「本当に求められる生産者とは」というテーマで、これからの時代に必要とされるであろう生産者について深掘りしてみました。

生産側の人間と触れる機会って、中々ないと思います。それゆえ、現場の雰囲気などを少しでも感じ取って頂ければと思い、お伝えしました。

珍事件のご紹介

そして今回は、生産現場で起きる「珍事件」について、ちょっとお話させて頂きます。

珍事件とは。例えば、Tシャツを作る場合。こちらがオーダーした色はネイビーだったのに、緑で仕上がってくる、とか。刺繍のデザインを勝手に変更されて、オーダーしたのとは全く違う見たことすらないデザインで返ってくる、とか。

そんな「ちょっと何言ってるか分からない」ような、事件のことです。

いま私は机に向かってPCのキーボードを打っているので落ち着いて考えられますが、現場では決して穏やかではいられないです。工場内を走り回ります。デザインのデータを渡すデザインルーム、サンプルを作るサンプルルーム、生地を染める染色工場にも繰り出し、刺繍を施す刺繍工場には夜中まで張り付いたこともあります。

現場ではいつも珍事件が起きています。そして、数々の珍事件をクリアした商品たちが、沢山の人の手によってなんとかカタチとなり、海を越えてお客様の元に届くのです。そう考えると、ひとつひとつの商品全てにストーリーがあり、何だか愛着もわいてきますよね。

なぜ珍事件が起きるのか

沢山の珍事件に遭遇して来たので、大抵のことには驚かなくなるという強靭な精神を手に入れた私ではありますが、それでも事件に直面した時には叫びたくなります。「なぜ、こんなことになるの?」と。

理由を、深掘りします。

結論からお伝えすると「生産者たちは、見たことがない」からだと思うのです。例えばですが、皆さんはバングラ料理のキチュリを作れますか?おそらく難しいと思います。なぜなら、見たことも食べたこともないから。一方で、ハンバーグや餃子なら、見様見真似で作ることが出来ます、だって見たことも食べたこともあるから。

見たことも食べたこともない料理を、人の指示だけで作るのってかなり難しいと思うのです。

それと同じようなことが、バングラデシュのアパレル生産現場では起きています。

彼らは洋服を生産しますが、彼ら自身が洋服を着ることは、基本的にはありません。日常生活では民族衣装を纏っている彼らにとっての洋服は、自分たちが着るものではありません。あくまで、基本的に着ることはない、人から指示されて作るもの、なのです。

品質について

そして、品質に関しても、同じ様なことが言えます。バングラデシュで生産している商品は、大量生産の商品が大半です。1型の洋服を、何万枚も、何十万枚も、作ります。生産は、ラインの流れ作業で行い、完全なる効率重視。お客様に要求された納期を守るべく、品質重視というよりは時間重視で進めて行きます。

要は、バングラデシュで生産に携わっている人たちは、高品質なものを見たことがないのです。

高品質なものに触れたことがない人たちにとって、「もっと品質を上げて欲しい」という要求に応えてもらうのは、かなり難しいことです。私たち日本人のように、常日頃から品質の良いものに触れている側にとっては、良いものを手にすることが当たり前で、高品質なものに囲まれた生活を何とも思いません。ただ、実は私たち日本人が日常的に触れているものは、バングラデシュの人たちにとっては、かなり違った捉えられ方をされているのが、事実です。

珍事件の打開策はあるのか

良いものを作りたいという価値観を共有できたときに、珍事件はなくなるのではないかと思っています。

生活環境の違いや、価値観の違いが原因になることが多いと、現場では感じます。もし同じ感覚でいることが出来れば、ネイビーでオーダーしたTシャツを緑で仕上げたり、刺繍のデザインを勝手に変更したりは、しないと思うのです。

一生見ることのない世界のためにモノを作ってくれる彼ら。少なくとも私と関わった人たちには、本当に良いものをつくる経験や、つくった良いものを身に纏った人達との繋がりが生まれればいいなと思っています。

今日も明日も、工場を走り回りながら、珍事件をおさめていきます。いつか、良いものをつくるという価値観を心から共有できる日が来ることを願って。

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飯塚はる香
About 飯塚はる香 29 Articles
“ファッションを通して世界をよりステキに”が、モットー。2013年〜日本で就職。某アパレルブランドのマネージャーとして神戸や吉祥寺などで勤務。2016年〜カンボジアへ移住。アパレル大量消費国の店頭から大量生産国の工場へと拠点を移す。2019年〜バングラデシュ在住。アパレル生産国で品質管理の仕事をしている。「国際協力×アパレル」の道で、生きていく。