50歳以上の年配男性は、異様に合繊生地を嫌い、綿100%やウール100%といった天然素材を好みます。
販売員の皆さんもそういうお客に出くわしたことがあるのではないかと思います。
50歳以上でもとくに60代以上のいわゆるシルバー層は合繊嫌いが多くいます。
彼らは「ポリエステルは暑い、蒸れる」といいます。
たしかにポリエステルという繊維の吸水性はゼロです。ですから昔のポリエステルは蒸れました。
彼らほどの年配ではない当方も23年くらい前にポリエステルで蒸れた経験があります。
26歳くらいのときです。どこぞの安売り屋でノーブランドのポリエステル100%のシャツを買いました。めちゃめちゃビビッドな黄色で、それにひかれて買ったのですが、この発色は天然繊維では出ないと思いました。
喜び勇んでその黄色いシャツを着てみたのですが、30分くらいで「失敗した」と思いました。吸水性ゼロな上に高密度な織り方だったのでしょうか、通気性もゼロだったのです。
30分ほど着ただけで蒸れて汗が噴き出ました。ちょうど、梅雨時にレインコートを着ているような感じになりました。
これを着続けることはちょっと無理だということで、その1度の着用で捨ててしまいましたが、年配層の「蒸れる」という言い草も理解できるような気がしました。
しかし、今、試合中に大量の汗をかくスポーツのユニフォームの多くはポリエステル素材です。もちろんポリエステルですから吸水性はゼロです。にもかかわらず「蒸れる」という声はききません。蒸れていてはスポーツのユニフォームとしては適しません。
今のポリエステルは毛細管現象を利用して、汗を外に出す機能が備わっているからです。
ですから、今、ポリエステル混のシャツを着て「蒸れる」と言っている年配層の多くはプラシーボ効果でそう言っているだけということが考えられます。
ではどうして、年配層は合繊を嫌い、純天然素材にこだわるのでしょうか。
もちろん、昔の合繊の粗悪なイメージによるプラシーボ効果はあるでしょう。ポリエステルは蒸れましたし、レーヨンは洗濯すると紙屑のようにくしゃくしゃなシワになりました。
ポリエステルの蒸れもレーヨンのシワも随分と今では改良されています。
しかし、個人的にはそういうプラシーボ効果だけではない気がします。
当方もその当時に生きていたわけではなく、資料などで読んで知っているだけなのですが、第二次大戦中から終戦直後まで、物資不足のため、綿やウールは使用制限され、レーヨンやポリエステルの混ぜ物の生地ばかりでした。当然、このような合繊混の生地は「安物」であり「粗悪品」で、純綿・純毛生地は「高級品」「高品質品」でした。
戦後70年以上が経過しており、今の70代・60代はこの当時をリアルで暮らしていませんが、その親世代から合繊物は「安物」「粗悪品」というように教えられて育ってきています。
ですから、合繊を嫌い、純綿・純毛生地を好むのではないかと、当方は考えます。
三つ子の魂百までといいますから、幼い頃から染みついたその嗜好が今後も抜けることはないのではないかと思います。
平成から令和に元号が変わりましたが、平成の前の昭和初期にはそのような状況があったということを知っておいても損はないでしょう。