2020AWメンズコレクションを終えて

AFFECTUSの新井茂晃です。

当初は3回で終わる予定だったデムナ・ヴァザリアのデザイン変遷をたどる連載ですが、思った以上に書くべき内容が多く、まだ連載は続いていきそうです。他に書いてみたい内容もありますが、現代のファッションを知る上で2010年代に最も大きい旋風を巻き起こしたデムナ・ヴァザリアのデザインを捉えることはこれからのファッションを考える上で重要な要素になるので、デムナ旋風が静まった今こそ、しっかりと記録していきたいと思います。

しかしながら、本日は閑話休題。今回は新年を迎えてから海外で始まった2020AWメンズコレクションを終えての感想を書いていきたいと思います。デムナ連載は次回から再開します。今日は僕がデザインに惹かれた3つのブランドを書いてみます。

まずは一つ目のブランドから。

戦国時代×アウトドア?

驚きました。高橋盾氏によるアンダーカバー(UNDERCOVER)のコレクションには。最初はアウトドアテイストなスタイルをアンダーカバー流にダーク&グロテスクに料理したデザインかと思ったら、様相が一変。

「え、え、え、なにこれ」

驚きの連続です。まるで戦国武将の甲冑を思わすディテールのトップスが登場。そのアイテムがアウトドアテイストと混じり合っているのです。

ヒストリカルなイメージはそれだけにとどまりません。まるで茶道の道服を思わす服も登場するのです。僕が浮かんできたイメージは千利休。このアイテムもアウトドアテイストと一体化しています。

こんな想像が世界にはあったのかと、驚くほかありませんでした。まさか戦国時代がモードファッションの舞台で、アウトドアと融合して新ファッションとして登場するとは。ビジネス的に見れば、はたして売れるのだろうかという疑問も感じてくるでしょう。事実、難しさのあるスタイルです。

しかしながら、既存のイメージにとどまらず、人々の想像を超えていく想像をデザインすることはモードファッションのデザイナーに課せられた宿命。これを怠れば、ブランドの評価は下がり、長期的視点で見たときにはビジネスにも悪影響を及ぼします。

モードとは想像を超えていくもの。高橋盾というデザイナーに想像の限界はないのでしょうか。

UNDERCOVER 2020AW

品格を備えたワークウェア&ストリート

2020AWコレクション発表序盤、僕が最も惹かれたのが今回はいつものロンドンではなくミラノで発表したA-Cold-Wall(ア コールド ウォール)です。デザイナーのサミュエル・ロスはヴァージル・アブローの下でキャリアを積んだデザイナーであり、そのスタイルにはストリート色が滲みます。けれど、彼のスタイルはストリートだけに収まるものではありません。

ブランド名の「冷たい壁」はイギリスの階級社会の差を見立てたもの。ロスのデザインには奥行きがあります。今回ミラノで発表されたA-Cold-Wallは、ロスがこれまで見せていた複雑なディテールは抑制し、シルエットとスタイルで勝負する構成。

そこで露わになったのが、ロスのシルエットに対する美意識。想像以上にロスにはシルエットへの美意識が宿っていました。服の表面を飾る装飾性は極力カットされ、シャツやパンツ、テーラードといった男の服装の基本となるアイテムをロスの美意識でエレガントに仕立てた服には、ワークウェア&ストリートの香りがありながらも豊かなシルエットが品格を生み出していました。

個人的にも着たくなる服があったA-Cold-Wallです。

A-Cold-Wall 2020AW

おじさんもファッションを楽しむ

年齢を重ねていけば、モードファッションが似合わなくなるのは必然です。なんだか頑張って着ている感が出てしまって、悲しくもなります。が!しかし!おじさんもモードを着たくなることがあるのです。自分自身、おじさんと言われる年齢になり、それを実感します。

ダッキー・ブラウン(Duckie Brown)は、おじさんがモードを楽しむ姿を最高のビジュアルで見せてくれました。モデルとして登場した男性は、白髪で髭を生やし、スタイル抜群とは言えない「普通のおじさん」です。けれど、ダッキー・ブラウンの最新コレクションを軽やかに、楽しく、かっこよく装っており、その一瞬をフォトグラファーが様々な角度から見事に捉えています。

英国紳士風ファッションの匂いも感じながら、クラシックなメンズウェアにはまず登場しないであろう華やかな色使いと軽やかな素材のアイテムを混ぜ合わせ、ストリートやジェンダーレスといった現代ファッションの文脈とも絡ませながら、新時代の渋おじモードファッションがデザインされています。

ファッションの快感を堪能させてくれたダッキー・ブラウンでした。

Duckie Brown 2020AW

ファッションは続いていく

いかかでしたでしょうか。各コレクションテキストの文末に、ルック写真が見られるVogue Runwayのリンクがあります。ぜひ視覚でもファッションを楽しんでください。

デザイナーたちの新しさへの探究心がファッションを新しくするだけでなく、僕たちの生活をも変える変化をもたらし、社会を変え、人々の価値観をアップデートさせてきました。

ファッションは続いていきます。人々の想像のさらにその先へ。

〈了〉

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新井茂晃
About 新井茂晃 16 Articles
1978 年神奈川県生まれ。 2016 年「ファッションを読む」をコンセプ トにファッションデザインの言語化を試みるプロジェクト「AFFECTUS(アフェクトゥス)」をスタート。 Instagramとnoteで発表しているテキストを一冊にしたAFFECTUS BOOKは、AFFECTUS ONLINE SHOP・代官山蔦屋書店・下北沢本屋B&B・鹿児島OWLで販売中。2019年からはカルチャーマガジン『STUDIO VOICE』、ニュースサイト『文春オンライン』への寄稿、代官山蔦屋書店でのトークイベント『AFFECTUS TALK』を開催するなど新しい活動をスタートさせている。ファッション批評誌『vanitas(ヴァニタス)』No.006にロングインタビュー掲載