機能性ワードに気を付けろ。

緊急事態宣言も解除され、街に繰り出したくなる今日この頃です。とはいえ、まだまだ警戒感が強いので、商品を直接触ることなどは躊躇われます。

これは僕ら生地屋にとっても非常に深刻な問題で、素材の風合いをきちんと確かめてもらいたいというお客さんとのタッチポイントが非常に狭くなってしまうからです。こうなってくると、素材の良さを訴求するには原料のスペックなどを言葉や文面でおしていくことになりますが、個人ブログでも書いたように、原料のスペックを伝えたところでその服の良さが理解してもらえるかどうかは微妙なところですが、原料スペックでもわかりやすく伝えらえる一つとして『機能性素材』があります。これからのシーズン、暑さを想像すると少しでも涼しく感じられるような装いをしたいと思うのは自然の流れです。

『接触冷感』や『吸水速乾』など市場にも夏を感じさせる機能をうたう素材はかなり出てきます。ご時世的に直接さわれない場合や、ネット通販で買う場合など、機能性ワードは判断材料になることもあると思います。が、文言に踊らされて失敗した経験、ありませんか?僕はあります。

 

『接触冷感』は文字通り、接触した時に冷たいと感じる機能です。Q-MAX値と言って0.2以上(6/4こちら記事投稿後、ご指摘をいただいて今では別の基準もあるそうですのでこのリンクで追記しておきます)の数字を出している場合は人間が冷たいと感じると言われている試験をクリアした素材が『接触冷感』と言えます。

これは素材が人の体から熱を奪うスピードのはやさで、Q-MAX数値が高い方が熱をはやく奪うということなんですが、正確には熱の移動なので、素材が一定以上熱を奪うと、人肌と温度が平均化するのでその服もすぐに温まって冷たくなくなります。『接触冷感』素材によくある誤解で、「素材自体が冷たくてその冷たさが続く」と思われていると、実際には生地が温まってイメージ勝りで「結局暑い」と思われてしまいます。
https://twitter.com/HARUKUNI_Y/status/1264867531036057600

 

また、『吸水速乾』も読んで字の如し、水を吸って、すぐ乾くという素材です。ポリエステル系に多いのですが、これも実数値と肌感覚に少し乖離があります。ポリエステル繊維そのもの自体は水を吸うことはありません。詳しく説明すると長くなるので、過去に書いた記事を読んでみてください。簡単に言うと「水がついたペットボトルは強く振り払うと水滴が飛んでいくから乾きますよね」ってことです。もちろんこれも生地自体が水を吸う(正確には生地中に拡散する)スピードと、それが蒸発して乾くスピードが優れている物が『吸水速乾』素材ということになりますが、スポーツをされる方は割と共感していただけると思いますが、ポリエステルのジャージが汗を吸ったあと肌にまとわりつくあの感覚、嫌ですよね。熱と同じで、生地中に水分を拡散し飽和した状態の生地は乾くまでずっと水分が表面にあるので不快感すごいです。全然さらっとしないじゃんっていうことになってしまいますよね。

 

そして『透け防止』。これも「厚着をしたくないからなるべく一枚で過ごしたいけど、下着が透けるのはちょっと」というひとは気にする機能性だと思います。が、これはほんと、着て確認するのがベストとしか言えず、具体的に『透け防止』の機能性を実証する数値や試験は存在しません(6/4こちらも投稿後にご指摘をいただいて、数値化する試験は存在するようです!情報ありがとうございます!詳細はこのリンクをご確認ください)。僕が知らないだけかもしれませんが(僕が知らないだけでした、申し訳ありません)。視認性、完全に見た目でわかる話です。これも商品が一方的に『透け防止』をうたっている場合が多く、実際はどうなのかと言われると微妙です。この辺も過去のブログを読んでもらえたらなんとなくわかると思います。

 

なんでこんなにも価値訴求と実感のズレが起こるのでしょうか。

これはおそらく、僕の主観ですが、一般的なアパレルメーカーは企画から商品が市場に出るまでの時間が短いというところにあるのではないかと考えています。企画から3-4ヶ月で売り場に出すためには着用した実感をまとめて商品を改善していく時間はほとんどありません。故に、機能性の数値を持っている、または自発的にうたっている素材をあてがい「生地のスペックがそうなんだから、そうなはずだ」という理論的な検証だけで世に出ている商品が多いと思われます。もちろん、その素材は公的機関で試験をして、しっかりと数値が出ているから効果があると言っているので、嘘ではありません。しかし、試験結果と機能性の効果効能イメージの実際の感覚はここまで述べてきたように元々ズレています。だから理論だけではクリアできないんではないかと思います。

 

この辺の実体験から商品をきちんと機能的に仕上げていく作業をきちんとやっているメーカーもちゃんとあります。だから一概に全ての商品が機能性と実感がズレているとは言えないのですが、『機能性ワード』を過信して洋服を選ぶのは少し待った方がいい場合もあるかもしれません。

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山本晴邦
About 山本晴邦 18 Articles
新潟県、佐渡市の達者という小さな集落にて生まれ育つ。 縫製業を営む母に影響を受け、高校卒業後に洋裁専門学校へ進学。 専門学校在学中に和歌山の丸編み生地工場の東京営業所でアルバイトに付きそのまま就職。 工場作業から営業まで経験し13年間同社にお世話になり独立。ulcloworksを立ち上げる。 原料から糸の作り方、生地の編み方や染め方を常に探求して日々研究に勤めている。 業界の将来に繁栄をもたらすにはどうしたら良いのかを常に考えている。