審美眼を養おう。

首都圏は色々とまた大変な状況になってまいりましたが、粛々とやっていきたいと思います。

 

高額商品を扱っているブランドさんたちは、日々、正当なルートから正当なそして良質な原料を求めて商品開発につとめられていることと思います。そしてその商品を店頭で販売されている皆様におかれましても、自社の商品に誇りをもっていらっしゃることかと思われます。原料を供給する立場として、僕もそうあって欲しいと願いながら素材を生産させてもらっています。

消費心理として、随分と前から『安くて良いもの』を求めるのが当たり前の行動になった昨今、巷では高名な原料名を考えられないくらい安価で見かけられるようになりました。
その原料名における素材感をもって、その価格で提供できる生産背景が存在するのであれば紹介して欲しいなど本気で思うほどのものもあります。これは本気でそう思います。

「そんなのお前にチカラがないだけで、大手の生産背景ならなんとかなるんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。そういう事実もある事はあります。
ありますが、ぶっちゃけいうと、結構(ソレ、詐欺とギリギリのところだなぁ)と思わずにはいられない現状があります。事実、昔大手アパレルメーカーさんから某イタリア高級原料を手当てして欲しい旨のオファーがあった時に指値された金額があまりにも安価だったので、何かの間違いではないか?と問い合わせたところ、平然と「以前のサプライヤーは出血してくれていた(要は赤字で走っていた)」と言われたこともあります。
企業間取引の正義は時に『損して得取れ』という事があるので、一概にこれが悪とは言いませんが、この時つけ込まれた安値のループにおいて提供者側が報われる事はほとんどの場合、ありません。そして怪しかったので原料製造元に裏取りをしてみたら、いつまで経っても報われない事はサプライヤーも承知の上で、純度100%では赤字だが、10%に薄めたら採算が合うなどの手法をとり、高級原料10%ほどの使用量でその名を冠にして提供していた、なんていうケースもあります。

特に昨今のサスティナビリティの観点から、オーガニックコットンなどの環境意識商材は引き合いが強く、供給側も需要があれば提供したいという思いが強いです。繊維製造業界にとって売れてない時代が長くなってきたので、売れる時はできるだけ多く売りたいという思いはとてもよくわかります。ですが、以前から怪しいと思っていた事が実際に起こりました。

オーガニックコットンで不正が発覚

実はこれに限らず、オーガニックコットンに関してはそもそもの誤解も多く、買う側や提供側にとって曖昧な雰囲気で「なんとなく良さそう」といった具合で売れ行きが好調だった側面もあり、ややモラルにかけた訴求がされてきていた商材です。僕自身、量販系の売り場で見かけた訴求広告の中にはオーガニックコットンの定義を外れているにも関わらず、そのまま雰囲気で記載しているものまでありました。

なぜこんな事が可能になるかというと、オーガニックコットンに限らず、原料(これは繊維レベルの話)は供給された時の情報を信じるしかなく、生産背景まで追う事が難しいものだからです。天然繊維原料は、原糸メーカーが商品価格を安定させるために、複数農家などから原料を買い上げていたりするので、その時の製造ロットが必ずしも前回と同じ農家の栽培原料だという保証はありません。これが完全にトレース出来る原糸メーカーはそもそも契約農家などを公開しています。それくらい原料背景を安定して確保し、値段を一定に保つこととは難しいことなのです。この難しさを逆手にとって、『わかるはずがない』という欺瞞が生まれた事は非常に悲しいことではあります。いつぞやの某社の偽カシミヤ事件もありました。

一方で、事実、超大手原料メーカーさんたちは、その商取引のスケールの大きさから、高額原料を大量に契約することで一定安く仕入れできるというメリットを最大限に活かして市場に供給しています。この安値玉に辿り着けるルートをしっかりとグリップできるブランドさんだけに許される『安くて良いもの』は存在しています。なのでどれもこれも良い原料なのに安いのが詐欺っぽいとは言いません。ちゃんとしている人たちはちゃんとしていますから。

とはいえ、世界レベルで希少性が高いと言われている原料においては、いくらなんでも安さには限界があります。普通にちゃんとしたルートできちんと生産している場合は、それなりに高額になるはずなのに、ちょっと信じられないくらい安いという商品には何か裏があると考えた方が良いでしょう。

また、高尚な原料の高額な理由はきちんと素材感や見た目など風合いにきちんと反映されます。そういった原料そのものの風格を毀損することを防いだり、ちゃんとやってるブランドさんやメーカーさんたちが、不当な評価を受けないようにしていくためにも、審美眼は養っていきたいと改めて思う今日この頃でした。

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山本晴邦
About 山本晴邦 18 Articles
新潟県、佐渡市の達者という小さな集落にて生まれ育つ。 縫製業を営む母に影響を受け、高校卒業後に洋裁専門学校へ進学。 専門学校在学中に和歌山の丸編み生地工場の東京営業所でアルバイトに付きそのまま就職。 工場作業から営業まで経験し13年間同社にお世話になり独立。ulcloworksを立ち上げる。 原料から糸の作り方、生地の編み方や染め方を常に探求して日々研究に勤めている。 業界の将来に繁栄をもたらすにはどうしたら良いのかを常に考えている。