こんにちは、タニグチレイです。
先週は皮革の製造工程を過去の記事とともに一連の流れを見ていただきました。
正直「鞣し」というワード以外聞いたことがない方も多いと思います。
僕自身も革製品を扱うまでは聞いたことがないワードばかりでした。
ただ少しずつ知っていくと皮の種類が同じでもなぜ違う革ができるのか?とか製品革として付与された特徴はどんな工程を経たからなのか?など少しずつわかってくるので接客の際に理由としてお伝えできます。
覚えきれないことも多いですからもし聞かれて調べないといけない状況でもある程度わかっていると何を調べたらいいのかはわかります。
そんな応用のためにも今までざっくりとだけだった準備工程について今回は書いていきたいと思います。
準備工程ではまだ「皮」のままであり鞣すまでに状態を整えるための作業
まず準備工程中はまだ「革」になっておらず「皮」のままです。
鞣しを終えてようやく「革」になるんですね。
そして「革」にするための重要な鞣しの工程で鞣し剤が浸透しやすいように整えるのが準備工程です。
あ、ちなみに今食事前に読んでいる方で想像豊かな方はここでやめておいてください。
頭の中に思い描いて苦手な方はもしかしたらあまり気分がよくないとなるかもしれませんので。
上記の準備工程が何のためにあるのかだけでもわかればいいでしょうから。
ではここからは整えるための色々を先週の工程順に掘り下げていきましょう。
水漬け
まず本来剥皮直後の生皮の水分は60〜70%はあります。
しかしそのままでは微生物の繁殖などにより腐ってしまうのでそれを避けるため塩蔵処理、乾皮などの方法を取って輸送されてきます。
ただしその分水分が減少して皮の線維は膠着し硬く変化してしまいます。
そして皮にはまだ血液や汚物が付着した状態でもあるのでそれを取り除きさらに減少した水分を補って柔軟な生皮の状態に戻す作業がこの水漬けです。これは後の薬品処理をスムーズに進めるために重要な工程。
ドラムなどで大量の水を使用して腐敗しないよう注意しながら行われます。
裏打ち
フレッシングともいい裏打ち機と呼ばれる機械を使って皮の内面に付着した皮下組織、肉塊、脂肪などを除去する作業。
これをすることで内面から薬剤が浸透しやすくなり薬剤の節約にもなり革の品質向上にもつながります。
逆に言えばこの作業が不十分だと鞣しても硬くなり伸びにくい革に仕上がってしまうということですね。
脱毛・石灰漬け
準備工程の中では一番重要と言われていて水酸化カルシウムを過飽和濃度に調整した石灰溶液に原皮を漬けてコラーゲン線維をほぐす作業。
それとともに不要な毛や脂肪、表皮を分解除去するので別々の作業というより石灰漬けによって脱毛が行われる一連の作業ですね。
この時皮は膨張し線維構造が緩められるのでほぐされている状態になるわけです。後から出てくる再石灰漬けを行うことで効果が高まります。
この脱毛石灰漬けは通常ドラムなどを使って行われますが植物タンニン革ではピットと呼ばれる槽を使った石灰浴槽が行われています。
そして毛に価値のある羊皮では内面に脱毛剤を塗って積み重ねる石灰塗布法と呼ばれる方法で行われているので種類によって違いがあります。
分割
スプリッティングともいい分割機を使って厚みを調整するため銀面側と床面側の二層に分割する作業。
この分割は通常上記の石灰漬け後の皮に行われますが鞣し上がりの革でも行われることがあります。さらに仕上がり革や裁断革の厚さを調整するためにも行われるので必ずしもこの準備工程中だけの作業ではないということですね。
再石灰漬け
この名の通り石灰漬け後に再度水酸化カルシウム懸濁液に漬ける作業。
これによってコラーゲン線維がさらにほぐれ組織構造が均質になり柔軟化します。ちなみに衣料用革や手袋用革のような非常に柔らかい革を製造する場合はこの再石灰漬け時間を長くすると効果が高まります。
脱灰・酵解
こちらはそれぞれの作業であり同時に行われることもあります。
まず脱灰は石灰漬け脱毛後のアルカリ性になっている皮を酸または中性塩、酸性塩で中和し皮に結合しているカルシウムを溶かし出し除去する作業。
これによって皮の膨張が戻りコラーゲン線維の精製が行われます。続いて行われる酵解は皮を酵素剤によって不要なタンパク質を取り除く作業。
これによって柔らかく伸びがあり銀面が平滑で綺麗な革になります。
と、このように鞣して「革」にするまでの準備だけでも様々な工程を踏まえていることはわかっていただけたと思います。
最初に挙げた鞣し剤が浸透しやすいように状態を整えるための作業。
労力と時間をかけて良い素材へとするために行われています。
生物の一番外側にある組織なんですからそれだけのものではあると感じてしまいますね。