先日、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長の電撃解任が決定し、業界を驚かせました。
2012年の社長就任直後から「百貨店が生き残るためには、体質を変えなくてはならない」として矢継ぎ早に新規事業、他業種との合弁会社設立、人材の中途採用などを打ち出して、実行に移していきました。
個々の事案については、疑問が付くものもありましたし、成果に結びつかなかったものもあります。しかし、百貨店が従来通りのままではさらにシュリンクしていくほかありません。
百貨店の置かれた状況を手短にまとめると、売上高は30年ぶりに6兆円を割り込んでしまいました。また地方店・地方百貨店の閉鎖、撤退、廃業、倒産、事業移転が相次いでいます。つい先日も、さくら野百貨店仙台が自己破産しました。今後、こうした地方店・地方百貨店はますます減少するため、百貨店全体の売上高は5兆円からさらに縮小することは間違いありません。
従来通りのやり方で業績が回復できるなら、とっくに各百貨店の業績は回復しています。
百貨店ははっきりと言って衰退産業です。衰退産業を再成長させる場合、通常の産業を成長させることの倍の労力が必要になります。
そのため、打ち出した個々の事案の良し悪しは別として、「生き残るためには変わらなくてはならない」という大西社長の考え方は正しかったと思います。
大西社長は強いリーダーシップを発揮してトップダウンで次々と新しい事柄に着手してきました。その大西社長を電撃解任に追い込んだのは労働組合だと伝えられています。
要するに労働組合と一部の現場が、矢継ぎ早の改革と、相次ぐ新規事業の立ち上げによる過重労働に反旗を翻したということです。
ここに人間関係の難しさを感じます。
組織運営においてもっとも不満が少ないのは合議制でしょう。しかし、合議制で意思決定をするには時間がかかりますし、様々な意見を調整して統一するので、出来上がったプランは玉虫色である場合がほとんどです。玉虫色のプランは誰もが不満を持ちにくい反面、中途半端でどっちつかずであるために、業務面ではあまり効果的ではありません。
それゆえ、組織が危機に置かれている場合、合議制よりもトップダウンの方が適しています。
意思決定の速さが格段に変わります。
イシキタカイ系の皆さんが大好きな欧米の企業のほとんどは強烈なトップダウン制です。それゆえに意思決定が早く、あっと驚くような革新性が生まれる場合があります。
百貨店全体でも6兆円を割り込む縮小を見せているばかりでなく、三越伊勢丹ホールディングス自体も危機的状況にあります。決算の減収減益はさておき、競合であるJフロントリテイリングや高島屋に比べて百貨店依存比率が92%と異様に高いのです。その一方で百貨店事業利益率は1%で、Jフロント・高島屋よりも圧倒的に低いのが実態です。
本業に特化しているのにその本業の利益率が格段に低くて儲かっていない。これが三越伊勢丹の置かれた現状でまさに危機的状況にあります。
ここから脱するには強いリーダーシップによるトップダウン方式での企業運営しか手がなかったのではないでしょうか。
新社長は当然、強いリーダーシップを発揮しづらくなります。発揮し過ぎるとまた労働組合から解任されてしまいますから。おそらく三越伊勢丹は今後何も変わらないでしょう。そしてそのまま衰退するのではないかと個人的には見ています。
今回の三越伊勢丹のお家騒動は、他社にとっては企業運営の一つの参考事例に最適だといえます。