ユニクロや無印良品がカシミヤのセーターを低価格で売りはじめた頃から
百貨店やセレクトショップでは
「お値段、けっこうするのね。」
「カシミヤですから。」
この、水戸黄門の印籠みたいな一言返しが通用しなくなりました。
どういうカシミヤなのか、どういうブランドなのか、どんないいことがあるのか
お値段の理由をお客様が共感できる切り口できちんと語って価値を伝えらえなければ
「ふーん、ユニクロでいいや」で終わりです。
そしてこの2016年秋、100円ショップのダイソーがハリスツイードのポーチなどを400~600円で発売しました。
百貨店やセレクトショップでは
「なんでこれだけ高いの?」
「ハリスツイードですから」
この一言返しが通用しなくなりました。
「100均にもあるのに?」で終わりです。
そもそもこんなセールストークとも言えない一言でハリスツイードを売っていたショップやアパレル販売員は淘汰されても仕方ないのですが
ていうかそんな一言で買っちゃうお客様もしっかりしてくださいって感じですが
今回はこの
ダイソーでハリスツイードが売られている件
について整理して考えたいと思います。
もしかして:ハリスツイードの生地は実は安かったのか?!
答えはノー、です。
これまで、まるでちょっと高いブランドやショップの専売品のような言われ方だったハリスツイード。
ランクは様々ですが、決して安いものではありません。
これまで、よくわからないけど販売員に「ハリスツイードだから」と言われて買ってしまった品物が、急に陳腐に思えてやりきれない気持ちになっている方のためにも書いておきます。
その証拠に、ダイソーで100円で売られてはいませんね。
ところで
「今期、うちのブランドでもハリスツイードのジャケットの扱いあるのにダイソーで500円とか言われちゃったら売れないよ…」と嘆いている販売員のあなた。
市場調査の観点で
① ダイソーのハリスツイードの商品を見に行ってください。
② ハリスツイードのジャケットの価格(プロパー)を数ブランドでいいので調べてください。
次にアパレル販売員の予備知識として
③ ジャケットの要尺を調べてください。
何が言いたいかというと
扱う商品の値段の理由を自分で説明できるように、自らすすんで情報を集めて欲しいのです。
高い理由だけでなく、安い理由も。
それが、お客様があなかたから買いたいと思う理由に繋がるから。
まず
メンズのジャケットの要尺は150㎝巾なら170~200㎝くらいです。
つまりケチっても150㎝×170㎝のハリスツイードの生地を使用してます。
面積出しましょう、
150×170=25500平方センチメートルです。
ダイソーのハリスツイードの商品は
手のひらサイズのがま口から大きめのポーチまで大小様々ですが、ざっくり均すと12㎝×10㎝くらいで1個作ってる感じがします。
同じく面積出しましょう、
120平方センチメートルです。
ジャケット1着分の生地で中心価格500円のダイソーハリスツイードは何個できますか?
25500÷120=212.5個
ざっくり計算なので200個としましょう。
500円×200個=10万円
ですが
メンズのハリスツイードのジャケット、
10万円してますか?
SHIPSで4万3000円
NEWYORKER BY KEITA MARUYAMAで6万9000円
CIVILIZEDで7万5000円
でした。
かなりざっくりな計算をしましたが
決してアパレルブランドがぼったくっていた訳ではないことが分かりますでしょうか。
SHIPSの値段にだけ注目すると
今度はダイソーがぼったくっているように見えてしまいますが
もちろん裏面の生地(ハリスじゃない)とか、ファスナーや金具、200個分の生地ネームとかに費用がかかっています。
SHIPSは企業努力により、狙う客層に受け入れられる値段でハリスツイードの世界観を届けるため生地ランクの選定から裏地やポケットの仕様まで工夫してのプライスだと思います。他ブランドも然りです。誰に買ってもらいたいかを考えての生地選びと仕様、プライス設定です。
ダイソーはダイソーで、通常100円のつくりの小物にハリスツイードを片面に使うことで『あの有名なハリスツイード』という付加価値を300~500円で見事にくっつけたことになります。
まるでちょっと高いブランドやショップの専売品生地のような言い方をされてきたがゆえ更に高められたその価値を、上手に利用した点には感心します。
語弊は承知ですが
スーパーのお惣菜の天ぷらに金粉をかけて『高級料亭の味』にした感じです。
しまむらの、ポケットだけハリスのシャツもそうです。
ハリスツイードの価格破壊が起きたわけではなく、生地を選んで小さく使えば、ダイソーでも商品化できるし利益も出せる算段だということです。
以上、稚拙なことを力説してしまいましたが、こんなことをお客様に語る必要はありません。
ハリスツイードは元来歴史のある手織りもの
今でも各家庭規模で手作業されている伝統の生地
ぬくもりを感じる色合いは
厳しい寒さの諸島で採れる草花の色
強く弾力のあるケンプを織り込み
ゴワっとしたワイルドな質感とぎゅっと詰まった重量感
それに残されたあぶら臭さが特徴で
使い込むほどに質感はやわらかくなじみ
経年変化に愛着を感じられる逸品
もともとは極寒の海へ向かう漁師のため
家を守る女性たちが織っていた
その思いから、風を通さぬよう、目が詰まって今よりもっとずっしり重たいものだった
昔むかし、とある伯爵の未亡人がハリス島の職人に織らせたチェック柄を見て産業にしようと考えた
周囲への営業に努め売上を伸ばし
生産方法の改善により見事に成長
その評判はイギリス全土に広まり
今や世界中で愛されている伝統的なツイードとなっている
伯爵夫人の名は、レディ・ダンモア。
彼女が最初に目をつけたのは、100年以上も昔、ペリーが日本にやってくる頃。
彼女のビジネスセンスとパワフルな仕事、
今もなお職人により守られ続ける伝統に
興味が湧きませんか。
ときにはこんな昔話を
してもいいかもしれませんね。