ときどき気になる、内容の浅い商品説明。今回は、そのキーワードの使い方と伝え方について触れていきたいと思います。
「○○社の生地を使っています」→だから何が良いのか答えられますか?
先日通販サイトを見ていたら「MALHIA KENT(マリア・ケント)の生地を使用し…」という商品説明文を見かけました。マリア・ケントは、日本の一般のお客様の認知度はゼロに近いですが、フランス・パリの織物メーカーです。100%フランス製で、CHANELが使用するファンシーツイードを生産しています。
店頭では時折「こちらのジャケットは、CHANELも使っているメーカーの生地を使っているんですよ~」という商品説明がされたり、ECサイトの説明文には具体的に「MALHIA KENT」の名が載せられたりします。
説明の際にCHANELの名を借りていいのかどうかという話はとりあえず置いておくことにして、この商品説明は何が言いたいのだと思いますか?
CHANELに憧れを抱くお客様であれば、お近づきになれるような気がしていいのかもしれません。ラグジュアリー好きのお客様にも、その威光は見過ごせないかもしれません。
ですが…、もしお客様がCHANELに全然興味がなかったら?
他に言えることは用意できていますか?
DiorやGIORGIO ARMANIもマリア・ケントの生地を使用しているそうです…ではなく、メーカーや取引ブランドの名声頼みの説明しかできないようでは、いけませんよね。
お客様が買って使うのは商品で、素材ではない
有名ドコロと同じメーカーのものを使っていることは、自店商品の特長として言いたくなる気持ちは分かるのですが、「ラグジュアリーブランドと同じメーカーの生地でつくった服なの?!この値段で?!じゃあコレ買います!」というお客様は、どれくらいいるでしょうか。決め手の一押しになる可能性はありますが、それを一番の理由にして買う人はほとんどいません。服は着るものだから、着た時どうなのかが重要だからです。そもそも別物ですし。
ここから、シャネルツイードについてまとめつつ、実用的な商品説明へのトランスフォーム例を書いていきます。必要な方は参考にしてください。
CHANELが使うシャネルツイードといわれるファンシーツイードは、他のツイードに比べて撚り(より)が少ない甘撚りの糸を使っています。
撚りが少ないのでふんわりと柔らかいです。スコットランドの漁師さんの防寒着に使われていた、度の詰まった重たいハリスツイードとは生地の風合いが全く異なります。カラーに関しても、シャネルツイードはファンシーなカラーで、他のツイードとは違う明るくフェミニンでポップな感じがします。
この内容から使えるのは下線を引いた部分ですが、「甘撚り」という表現も口頭だとピンとこない方が多いので注意です。「ふんわりとした糸で織った柔らかい織物で、色づかいが華やかな、明るい気分になるツイード」くらいがいいと思います。
シャネルツイードを使ったシャネルスーツは、1924年頃に最初に発表されました。ヒットしたのは、1954年2月、ココ・シャネルが71歳でモード界に復帰した際の第一弾のコレクションのときです。フランスでは不評だったそうですが、当時女性の社会進出が盛んだったアメリカでは大絶賛されたといいます。職場でも、パーティでも着られて、ステイタスが感じられる服だったからです。
ココ・シャネルは、第一次大戦の頃から女性のファッションを開放的で動きやすい実用的なものにしてきた人です。かつ、女性の自立と美しさへの執着もありました。ジャージー素材を女性の外出着に使い始めたのもココ・シャネルです。その彼女が発表したシャネルスーツが動きにくいわけがありません。その素材がかたくて重くて窮屈なわけがないのです。
したがって、「仕事で使えるきちんと感がありながら、オシャレ着にもなる。やわらかく動きやすい、着る人に日常を楽しませるツイード」と言えます。
このように、実際にお客様に商品説明をするときはピンクの下線部が特長として伝わらないと意味がありません。それから服としては、デザインやパターンの良し悪しや、お客様のイメージや体形などに合うかどうかが重要なので、メーカー名やその取引先の名声に威を借りてすべてを委ねることのないように気をつけたいものです。
長くなったので以上にしますが、最後に補足です。
シャネルが使用するツイードには、リントン(LiNTON Tweeds)やクラレンソン(CLARENSON)製のものもあるといいます。シャネルツイード=MALHIA KENT、ではありませんので、この記事を読んで興味のわいた方は予備知識として押さえておいてください。