なぜ原皮は呼び名がいろいろあるの?

こんにちは、タニグチレイです。

昨年末の日経新聞にこんな記事がありました。

 

牛原皮、下げ止まり

2014年4月には米国産ヘビーステアが過去最高値を更新したと過去にあったのでこの6年ほどで大きく変わっています。様々な理由が重なってのことであるとはいえまだまだこれからも変わるでしょう。

 

皮革製品の代表的な素材と言われれば誰もが牛革と答えると思います。それだけ親しまれてきた身近にあるもの。

遡ればネアンデルタール人は動物の毛皮で寒さを凌がないと当時のヨーロッパの冬を生き延びれなかったといいます。この話は牛革ではありませんが大昔から皮を活用してきて今でも色々なものに使用されている素材。

 

今回はその代表的である牛革の種類について書いていきたいと思います。まずは代表的と言われるだけあって生産量は世界中でかなり量だというのが記事の中にある文章でわかります。

「世界の牛原皮生産量は3億枚と言われている〜アメリカは一割強の3400万枚ほど」

食肉の副産物と考えたら実際にはどうなんでしょう?食用に利用される割合は牛の体重の約45%が精肉で約30%が内臓のようなのでどれくらいの量になるのか想像できません。ちなみに皮は約9%の割合のようですね。

 

農林水産省が発表した平成31年2月のデータでは日本国内の肉牛飼育頭数は約250万頭、豚が約915万頭。(飼育頭数と原皮生産数は一致するものではない)これは先ほどの原皮の生産量と比較するにはそもそもが違いますが世界で流通する量の多さは感じてもらえると思います。

美味しい和牛があるわけですから当然日本国内で流通したり輸出される原皮もあります。ちなみにA5ランクとか肉には等級がつけられていますよね。あれは公正な取引をするために格付けされたもので美味しさの基準ではありません。いや、まぁ間違いなく美味しいんでしょうけど。食べたことがないのでわかりません・・・。

日本の牛肉の格付けは歩留まり等級A〜Cと肉質等級5〜1で表されます。例えばA5が最高ランクでアルファベットと数字の組み合わせで表されるもの。

この格付けは枝肉の状態でされます。枝肉とは生体から皮や骨や内臓を取り去った肉牛のことで歩留まり(ぶどまり)とはその割合が大きいほど等級が高いとされています。

つまり同じ体重でもより多く食べられる肉の部分が取れる方が等級が上ということ。肉質等級は脂肪交雑、肉の色沢、肉の締まりとキメ、脂肪の色沢と質、の4項目で総合的な判断がされるようです。霜降り具合とか赤身の色艶とか触感などその総合力ですね。これは結構細かく基準が設けられているので興味がある方は調べてみてください。

アメリカやオーストラリアなど国が変われば評価基準も評価方法も表記も違うのでお肉が好きな方は調べてみるのも面白いかもしれません。

少し余計な話もしましたがここまでしつこく書かれたら皮は副産物だということを嫌でも意識してもらえますよね。

 

牛革は重量や性別によって区別され質や特徴が変わる

動物の皮として一番多く利用されているというのはもう十分ですね。

見た目としては品種によって毛の色や分布、斑点に特徴があります。ですが革になるまでに毛は取り除かれることがほとんどです。一部例外を下に載せていますが正直あまり見ないです。毛包(いわゆる毛穴)はほぼ均一に分布した単一毛包なので革に鞣されてもほとんど気になりません。

そして乳頭層の凹凸が小さく比較的均質なコラーゲン線維構造を持ち強度がある。つまり銀面が滑らかで丈夫な革ができるということですね。利用される製品が多いわけです。

 

さらに多い理由として重量や性別によって区分されるのですがまずは飼育月齢の目安が下記のものです。

・子牛は飼育月例6ヶ月ほど平均体重60kg。
・成牛は飼育月例24〜30ヶ月ほど平均体重450kg。
・どちらにも属さないものが中牛。

 

先ほどの食用肉のところで皮の割合は約9%と書きましたので子牛か成牛かで取れる割合は大きく違うのがわかると思います。
製品によって必要な量が変わるわけですから面積によって必要枚数のコストも変わるということです。もちろん質や特徴を踏まえて選ぶので大きさだけが全てではありません。

それと小動物や未成熟の大動物の皮をスキンといい一般的には小判で薄くて軽いです。本来牛は大動物ですが未成熟の子牛の時の皮はスキンに属します。成牛を含め大動物の皮をハイドといい一般的に大判で厚くて重いです。

以上を踏まえて以下のように呼び方も区別されて流通します。

 

子牛〜中牛の種類

 

カーフスキン(子牛皮)
・子牛から得られる皮で一定重量を超えないもの(*)。
・生後6ヶ月以内の子牛の皮。
・傷が少なく乳頭層のキメが細かいため非常に柔らかで銀面が美しい
・9.5ポンド(約4.3kg)以下をライトカーフ、15ポンド(約6.8kg)までをヘビーカーフと呼ぶ。

(*)参考までに国によって重量が異なる
アメリカは塩蔵で約7kg、イギリスは生皮で16kg、イタリアは塩蔵で14kgなど。

ハラコ
・流産や死産の胎児の皮で腹子とも書く。
・英語でUnborn calfという名称で現実的には非常に数は少ない。
・雄の乳牛や肉牛の子牛などで生後3ヶ月以内にと畜されたものも指す。
・毛付きのカーフも腹子と称することも多い。
・腹子は胎児と同義語で用いられることはない。
・ビロードのような滑らかな毛並みだが強度は低いので装飾的な使われ方をする。

毛付き
・通常は脱毛処理をするがそれを行わずなめしたもの。
・カーフの毛付きはヘアカーフと呼ばれる。

キップスキン(中牛皮)
・大きさが仔牛皮と成牛皮の中間の牛皮で中牛皮ともいう。
・生後6ヶ月から1年くらいまでの牛の皮。
・カーフに近いキメ細かさがありつつ繊維の密度が高くなっているため比較的丈夫でしっかりとしている。

 

成牛の種類

 

ステアハイド(去勢牛皮)
・生後数ヶ月後(3〜6ヶ月程度)の間に去勢された(生後2年以上の)雄の成牛の皮。
・最も一般的な食肉用の原皮のため一番代表的な製革原料。
・皮質は雄牛の皮と雌牛の皮の中間。
・大きさの分類は地域で異なるが北米では58ポンド(26kg)以上のものをヘビーステア、48〜58ポンド(21.8〜26kg)のものをライトステア、30〜48ポンド(13.6〜21.8kg)のものをエクストリームライトステアと呼ぶ。

ブルハイド(雄牛皮)
・去勢されていない(生後2年以上の)雄の成牛の皮。
・粗く固い繊維で分厚く大きい。
・非常に丈夫だが銀面は粗く傷が多い。
・頭、首、肩が極めて厚い。

カウハイド(雌牛皮)
・生後2年以上の雌の成牛の皮。
・ステアよりも薄く銀面のキメが比較的細かいがややベリー(腹部)の繊維は粗い。

 

日本とその他の種類

 

地生(じなま)
・日本国内の食肉加工工場から仕入れた原皮。
・輸送期間が短く原皮の保存処理をせず毛を外側にして畳む。
・飼育状況が良いため傷が少なく銀面は綺麗だが海外原皮ほど厚くない。

一毛(ひとげ)
・黒毛和種の原皮。
・国産成牛原皮は大別して黒毛和種の牛皮とホルスタイン牛皮の二種に分かれる。
・毛色が一色であることから一毛と称される。

ホルスタインハイド
・一般的にはオランダ原産の乳用牛の皮。
・毛色は黒と白のまだら模様。
・ホルスタイン種の皮でホルスとも呼ばれる。
・重量の割には面積が広く肉用牛の皮に比べて薄い。

バッファロー
・アメリカバイソンも含む水牛の皮。
・通常の牛革より厚手で丈夫だが繊維はやや粗い。
・表面は独特の野生的なシボ。

 

 

一種の動物でこれだけあるのも牛くらいです。製品に使用され取り扱うものはある程度絞られてきますが知っていると表情の特徴や強度の目安、価格の違いなど連想できます。提案するときの理由にできるといいですね。

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谷口玲
About 谷口玲 221 Articles
1976年3月生まれ。 販売員歴18年。 メンズはヨーロッパ系デザイナーズセレクトショップと英国デザイナーズブランド、レザーグッズブランドで販売。 レディースはミセスセレクトショップとドメスティックデザイナーズブランドで販売。 今まで大阪、神戸、京都、広島、札幌、東京、横浜などの百貨店を中心に店頭に立ち現在はフリーランスの販売員。