こんにちは、タニグチレイです。
前回は素材として流通する革が取引される際に使用される単位であるDSについて書きました。
これがわかっていると例えばカバンやジャケットなどの面積を計算すれば必要量やコストの概算ができます。
そしてそこでも少し触れましたが裁断の仕方や部位の呼び名があります。
それぞれに特徴があり製品に使用される向き不向きもあります。
今回は動物の中でも大きな種類である牛皮を使って部位や裁断方法を見ていきましょう。
部位の特徴は製品に使用されるパーツにとって重要なこと
上の図は背中から四肢を開いた状態の牛皮です。
(亀っぽく見えるかもしれませんが牛です。ウシです。うし・・・。)
そして番号を振っているのがそれぞれの名称であり特徴が少しずつ違います。
1:ヘッド
線維が乱雑でキズが多く非常に荒々しい部分なので残念ながらあまり製品に使われません。
2:ショルダー
場所は肩の部分。
原料皮では頭部を含めることがあり首の部分は通常含まれます。
ベンズ(後で出てきます)と同じく線維が緻密で整っている部位。
表面にバラキズやトラが現れやすいのが難点でもあり特徴でもあります。
このバラキズとは動物が生きている間に障害物にぶつかったりかゆいところを押し付けたりする時にできるキズで体の前の方にあるショルダー部分に付きやすいのです。
走る姿を想像してもキズが付きやすい部位だと想像できますよね。
そしてトラは首を囲むようについている筋であり首周りの皮がたるんでできるシワが模様になったものです。
ショルダーはキズやトラを避けながらパーツを取る必要があるので大きいパーツを使う製品より小物に使われることが多い。
ですが線維の密度は高いので革特有のトラ模様を生かしてパーツを取ることもある。
製品化されたバッグなどを見ると時々使用されておりそれはそれで無骨な感じがまた良かったりします。
3:ベリー
場所は腹の部分。
原皮の裁断方法では四肢も含まれており、もし四肢を含めない場合はベリーミドルと言います。
バット(後で出てきます)に比べて線維束の密度が低く銀面に平行に走っており交わりも少ない。
そのため強度は他の部位より劣るので革製品に使用する場合は荷重のかかる部位への使用は避けたほうがが良いですね。
加工はしやすいが線維の絡みが緩く伸びやすいのが難点といったところでしょうか。
薄くして強度が不要な裏地や靴の中敷などに使われます。
4:ベンズ
ショルダーとベリーを取り除いた部分。
線維束の密度が高く充実しており皮も厚い。
また線維束の交わりも十分な部位。
JIS法などで強度試験などが行われるのですがその試料採取部位となっています。
背中心で半分に割ったものをシングルベンズ、割らないものをダブルベンズと呼び分けています。
面積が大きいためバッグの表側やベルトに使われることが多い。
ちなみに上記のダブルベンズをバットと呼ぶこともありますが最近ではこの呼び方は減っています。
続いて上記の部位を合わせた裁断による呼び名です。
5:サイド(半裁)
背中で2分割した皮。
成牛皮や馬皮のように大きな皮を水戻しや石灰脱毛後に背線で半分にするので半裁ともいいます。
これは加工しやすくするためのものであり背割りと呼ばれるものです。
最近は大型のフレッシングマシン(裏打ちに使う機械)やスプリッティングマシン(分割に使う機械)が導入され鞣し後に2分割することも多いようです。
フレッシング(裏打ち)やスプリッティング(分割)は以前の革の製造工程を参考にしてください。
また子牛皮、豚皮、羊皮、山羊皮、鹿皮などの小動物皮は丸皮で鞣すため分割しないのが通常です。
ここで出てきた丸皮(丸革)ですが名の通り裁断しない一枚の皮全体のことです。
成牛皮のように大きな皮は背中で分割後処理して半裁革とすることが多いですが自動車用革や家具用革など大きな面積が必要なものは丸皮で加工される場合もあります。
他には先ほどの小動物のような小さい皮は丸皮のまま処理を行うんですね。
6:クロップ
牛皮を背中で2分割して更にベリーを除去して残った部分。
またはそれを鞣した革。
クロップという用語は主に北米で使用されその他ではハーフバックと呼ばれます。
ショルダーとヘッドを含んでおりこのクロップからショルダーとヘッドを除去するとベンズになるのは二枚の図を見ていただければわかっていただけますね。
このように部位や裁断によって呼び名や特徴が違います。
生き物である以上個体差がありそれが良さでもあります。
線維の方向性や丈夫さ、美しさなどを考慮すると一枚の革からひとつのバッグしか作らないというブランドの信条を持ったところもあるでしょう。
(かなり高額になるでしょうが)
複数枚の中から表情や線維の方向など相性の良いパーツ取りをして合わせるのも職人の経験が活かされることもあるでしょう。
仮にどちらであってもそれぞれに良さと理由がある革製品。
色々使ってみると感じることができますよ。