アパレルブランドの展示会に行くと、ときどき「カットソー仕立てのセーターです」と説明を受けることがあります。
販売員のみなさんはこれってどういう商品なのかお判りですか?
実のところ、編み組織においてはすごく違いがあるというわけではありません。
セーターでも使用する糸と編地組織の選択によっては極めてカットソーぽい商品もあります。
逆にカットソーとされる商品でも通常の天竺やフライス、スムースなどの編地ではない変わった編地で極めてセーターに近いものもあります。
そうなると、企画者や製造側の便宜上だけで呼び分けているのかということになりますが、確実に1点だけ、カットソー類とセーターの異なる点があります。
それはカットソーは首周りのリブ部分や袖部分を縫って取り付けており、裾と袖先はロックミシンでまつられているところです。
セーターは首回り、袖先、裾のリブも、本体と袖の取り付けもすべて縫製ではなく、リンキングという工程で行われています。
これは通常のミシンで縫っているのではなく、平たく言えば、編み合わせていると考えてもらった方がわかりやすいでしょう。
そういう特殊なリンキングという工程によって、首回りや袖やリブ部分が取り付けられているのはセーターだけなのです。
そして、リンキングは国内の場合だと専用のリンキング工場で行われ、本体の編地を作る工場とは別である場合が多いのです。
リンキングはリンキングの技術を生かして他の商品を作ることがかなり難しい(発想の点でも、技術の点でも)ため、国内のリンキング工場は年々減っていますし、残っているリンキング工場も悪戦苦闘しています。
以前、ニットを得意とするデザイナーさんの紹介で何軒かのリンキング工場の社長と知り合いましたが、自社製品開発や応用技術開発については彼らもノーアイデアでしたし、当方もノーアイデアでした。
それほどに地味で局地的すぎて応用や自社製品開発が難しい技術工程である反面、これがないとセーターは製造できなくなるという重要工程でもあるのです。
冒頭の「カットソー仕立てのセーター」というのは、リンキングの代わりにミシンで縫製してあるものを指します。
リンキングではなく、カットソーのように首回り・袖先・裾・袖の取り付けをミシンで縫製したりまつったりしてあるものが「カットソー仕立てのセーター」ということになります。
そして、今後10年後、20年後には国内のリンキング工場はほとんど消えてしまうと考えられています。
ユニクロと提携したことで一躍脚光を浴びた島精機が製造する一体成型ニット編み機「ホールガーメント」ですが、これの最大の利点は「リンキングなしでセーターが編める」ということです。
一体成型による着心地の良さとかフィット感とかそんなものはすべて「売らんかな」のための嘘っぱちにすぎません。
セーター自体はもともと伸縮性が高いため、フィット感とか着心地の良さとかはすでに実現されており、一体成型になったからといってそれ以上飛躍的に向上するものではありません。
ホールガーメントの利点は次の3つです。
1、リンキング不要
2、全自動での一体成型なので工場の人員を圧倒的に減らせる
3、ホールガーメントでしか実現できない形のデザインがある
です。
デザインのことはニット専門家の説明を聞いてくださいとしかいえませんが、上の2つは普通の人間でもわかることです。
リンキング工場が無くなってもホールガーメントがあればセーターは量産できますし、全自動なので、工員一人が何台もの機械を管理することで極めて少人数でセーター工場を運営することができます。
そして、ホールガーメントでの生産は、量産になればなるほどコストが安くなり効果的になります。
ですから、ユニクロとの提携は極めて理にかなっており、まさしくWINWINの関係といえるのです。
逆にこれまで「ホールガーメントで編んだこと」自体を付加価値として掲げて高価格設定していたブランドは、ユニクロのホールガーメントセーターに残らず駆逐されてしまうことになるでしょう。
中途半端なホールガーメントセーターブランドが生き残るには、ユニクロが手掛けないようなデザイン性の高いホールガーメントセーターを量産するしかないのです。
それができないブランドは、リンキング工場の減少も相まって「カットソー仕立てのセーター」を作るほかなくなるでしょうから、今後は意外に「カットソー仕立てのセーター」という商品が増えるかもしれませんね。
あまりお買い得とは思いませんけど。(笑)